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お互いに一人で観に行き、混んでいたために、たまたま席が隣同士になった。
もちろんそれだけで知り合ったワケではない。
なんせ薄暗いから、顔もまともに見えないし、何より俺は映画に集中していた。
きっかけは沙織が作った。
俺が自分の座席のカップホルダーに置いていたコーラを、間違えて飲んでしまったのだ。
それだけなら何てことは無かった。
俺は飲まれた事に気付かなかったし、それに気付かないまま、そのカップを手にしても
“アレ?俺、もう全部飲んだっけ?”
と思っただけだっただろうから…
だが、おそらく、そのコーラを飲み干してしまってから、それが自分のドリンクとは違うと気付いた彼女は、何を思ったのか、沙織自身が飲もうと買っていた、ブラックコーヒーを、代わりに俺のカップホルダーに置いたのだ。
それにも気付かなかった鈍感な俺は、それを口に含み、ゴホゴホむせてしまった。
元来、コーヒーは苦手だったし、ブラックなんて苦いのは飲んだ事も無かった。
吹き出してしまい、前の席の人に迷惑をかけなかったのが幸いだった。
むせる俺に沙織は小声で
「ゴメンナサイ」
と謝ってくれたが、俺は何で自分のコーラがブラックコーヒーに変化してしまっていたのか理解が出来ていなかったために
「ダイジョブです」
と答えただけだった。
映画が終わり、釈然としないまま劇場を出た俺に…
「あの〜…」
沙織が声をかけてきた。
その時はじめて、まじまじと沙織の顔を見て、俺は一目で恋に堕ちてしまった…
19年間生きてきた中で、そんな感覚は初めての経験だった。
今まで付き合ってきた女性は、全て、向こうから告白されて付き合う事になった感じだった。
もちろんその娘達の事は、付き合っている時には真剣に好きだと思っていたし、それなりに大事にもした。
しかし、この沙織と出逢った瞬間、過去の恋愛が、一気に色褪せたモノになった様な気がしたのだ…
沙織は、芸能人に例えると、新垣結衣を少し大人っぽくした感じで、綺麗な黒髪にキメの細かい白い肌に、極薄めのナチュラルメイク、赤いセルフレームの眼鏡とはにかんで桜色のほっぺたが印象的だった。
とにかく文字通り透き通るような透明感と、純な感じに心奪われてしまった。
「スミマセンでした!」
「エッ!?なっ…何?」
沙織の容姿にポカーンとしていた俺は、彼女が何の事を謝っているのか、理解してなかった。
「ジュース…」
心底申し訳なさそうに、彼女は小さな声で言った。
「ジュース?」
馬鹿みたいにおうむ返しで聞き返した所で、ピンときた。
「ひょっとして、俺の座席のコーラをコーヒーとすり替えたのってキミ!?」
「ホントにゴメンナサイ!!
私、映画に夢中になっちゃってて、つい隣の席のアナタのコーラを飲んじゃって…
それで、どーしよーってパニックになっちゃって、それでそれで、私のコーヒーを代わりにと思って…でも、あんな事になっちゃって…
ホントにゴメンナサイ!!」
多分黙ってれば、俺は気付く事もなかったのに、律儀に呼び止めてまで謝罪してくれた彼女に、俺は益々好意をもってしまった。
「あー、まー、別に気にしてないから、いーッスよ。
あんま気にしないで下さい」
そう答えると、彼女は満面の笑顔になった。
「よかったぁ〜
ありがとうございます!
それじゃ、お詫びにコーラを買ってお返しさせて下さい。」
そう言い、彼女は自販機に向かおうとした。
俺は、ここでコーラを受け取ってしまい、彼女とこれっきりになってしまうのがイヤだと思い、勇気を出して誘ってみた。
「コーラより…
いっ…一緒にお茶に付き合って貰えませんか?」
自分でも判るくらいに、顔が真っ赤になっているのを感じた。
彼女は、一瞬ポカンとした表情をして、それから俺と同じように真っ赤になり、少し考えてから…
「じゃぁ、お茶だけなら…」
とオッケーしてくれた。
俺は天にも昇る気持ちで、彼女をエスコートし、その映画館の近所にあるカフェに入った。
そこで…意外にも話が弾んだ。
今観た映画の話、学校の話、趣味の話、家族の話…
初めて出逢った人とは思えないくらい、色んな話ができた。
後で彼女から聞いたのだが、彼女自身は、この時、緊張していて、ほとんど何を喋ったのか、どんな会話をしたのか覚えてないそうだ。
ただ単に、俺が振った話題に正直に答えていただけだったらしい…
と言うのも、そのカフェでの俺とのお茶の時間が、彼女にとって初めて異性と二人っきりで過ごす時間だったそうだ…
沙織の家は、両親ともに学校の先生で、それなりに厳しい家庭ではあったけれども、ごく一般的な家庭だったようだ。
しかし、小学校時代からずーっとエスカレーター式の女子校に通っていて、異性と接する機会が極端に少なかったらしい。
ちなみに沙織は、俺と同い年で、19歳だった。
“女子校なら、コンパのお誘いとか、けっこうあったんじゃないの?”
と聞いたが、それほどでも無かったらしい…
コンパに参加したこともナイわけではナイが、彼女にとっては、そんなに楽しいモノでもなかったようだ。
とにかく、今まで、男に興味が無かったわけではないのだが、興味を持てる男に出逢えなかった…そんな事を言っていた。
俺には?俺には興味持てない?
そう訊いてみたら、また顔を真っ赤にして、照れ笑いをしていた。
これは、ひょっとしたらひょっとするかも…そう思い、俺は必死にアプローチをし、なんとか(でも結構あっさり)携帯番号とメールアドレスを教えてもらう事に成功した。
この日以後、ことあるごとにデートに誘い、沙織自身も、俺に好意に似た感情を持ってくれたのか、彼女の方からも誘ってくれるようになった。
そして出逢ってから、2か月後くらいに、正式に彼氏彼女の関係まで、発展させる事に成功した。
…とは言うものの、彼女にとって、俺は初めての彼氏だったワケで…
当然、彼女はその時はバージン。
彼氏彼女の関係になったと言うのは“付き合おう”と言ったのを了解してくれただけで、キスすらしてはいなかった…
唇を重ねたのは、付き合い出して1ヶ月半も経った頃だった。
それなりに沙織に出逢うまで、他の女と何度もキスをしてきたつもりだったが、沙織の唇ほど柔らかく感じたものは無かった…
それは、千枝と交わした、エロティックな、いわゆる性的なキスとは違い、純粋に愛に満ちた行為だと思った。
セックスをしたのは、付き合い出してから半年も経ってからだった。
その間、何もしようとしなかったかと言われれば嘘になるが、彼女の想い出になるようなセックスにしたかったし、なにより一緒に居られれば、お互いに楽しかったので、その時期が来るのをそれとなく待っていたというのが正しかった。
初めてのセックスは、彼女の二十歳の誕生日だった。
場所は、都内のシティホテル。
ディナーをそのホテルのレストランでとり、そのまま、ごく自然な流れで、部屋に行き…
そこでやっと結ばれた。
そのセックスは、あの新井と千枝のした愛情の感じられない、性欲の排泄のような行為とは違い、お互いに慈しみ合った、愛に満ちた行為だったと自負している。
真っ白な肌、豊かな胸(Fカップだったらしい)、くびれたウェスト、小ぶりだがプリンッとしたヒップ、申し訳程度に恥丘に生えている薄いアンダーヘア、綺麗なピンク色のヴァギナ、適度な肉付きながらもスーッと伸びた脚…全てが想像を超えて綺麗だった…
まさに理想のカラダをしていた…
バージンだった沙織は、出血もし、痛がったが、俺をしっかりと抱きしめ、それに耐えてくれた。
そして、泣きながら
「ありがとう…
初めての人が、コーちゃんで幸せだよ」
とキスをしてくれたのだ。
俺も、そんな彼女が、堪らなくいとおしくなり、ギュッと抱きしめ…
「大学出たら、結婚しよう」
思わず、プロポーズしてしまった。
考えてみたら、その場のイキオイとはいえ、いささか恥ずかしい…
しかし、彼女もエヘヘと照れ笑いをした後に、
「フツツカモノですが…」
と言い、再びキスをしてきた。
その夜は、二人で繋がったまま眠りについた。
その後は、ほぼ毎日会ってはいたが、その度にセックスみたいな事もなく、まぁ週に1回ないし2回程度の頻度で交わり、愛を確かめ合った。
最近では、沙織も気持ちよくなってきたのか、控えめな声を出しながら、イッてしまう事も時々あるようだ…
とにかく、沙織と出逢ってからは、幸せな時間が続いていた…
あの、新井に誘われたバイトの日までは…
---続く---