禁断と背徳の体験告白
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【続】2度目の告白[第4話]|純愛・青春・幼少期

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【続】2度目の告白[第4話]

読了目安 15分18秒

[作品No 4] 2025/12/ 8(Mon)
「おーい、西野〜。待って〜」
「うるさい、話しかけるな。…俺だって辛いんだ」
「ひ〜君冷たいよ〜。美樹ちゃんに言っちゃうよ〜?」
「……」俺は無視して黙々と走る。

体育の時間、今日は数クラス合同で行われていた。校庭を男子がゾロゾロと走る。
「な〜、なんで体育の時間までマラソンなのよ〜? こないだマラソン大会やったばっかじゃんよ〜」
千鳥足の酔っ払いのような走り――もはや走りとも呼べない、歩みで秋田は愚痴を言う。
「俺に言うな。文句は教師に言え」
「あああ〜サボればよかった〜。…せめて女子がいればやる気も違うのに〜」呪詛のように恨めしく呟く彼。
俺は無視して置き去りにした。

苦行の様な授業はやっと終わった。皆一様に疲弊している。
休み時間、校庭近くの水飲み場は喉を枯らした男子達でごったがえしてる。
「ダメだなこりゃ〜。ああ、水飲みたいのに…」大して走ってないくせに秋田は言う。
「そうだな。俺、裏門の方の水飲み場行って来る。多分あんま使われてないだろう」
「あっちまで行くのか? 面倒だな、俺はここでいいよ。空くのをもうちょい待ってるわ」
「わかった」俺は歩き出した。

校舎の裏、普段は人も通らないような一角にやや古びた水飲み場はあった。
誰もいない。が、それはいつもは誰も使っていないという事だ。衛生面が少し心配になった。
「大丈夫かな…?」
俺は不安な気持ちで蛇口を捻る。透明な水が流れ出す。少なくとも、見た目は大丈夫そうだ。
何より、激しい喉の渇きに目の前の誘惑は断れなった。俺は大口を開けて水を飲む。
すると、やや遅れて誰か―――同じ色の体操着を着ていたので、さっきまで一緒に走っていた同じ学年の生徒だろう、別の男子もここに水を飲みに来ていた。



俺は水を飲み終わり、教室に向かい歩き始めた。ちょうど後から来た彼も給水を終えて、顔を上げた。
「なぁ、おい」呼び止められた。
「ん?」反射的に俺は彼のほうを向く。髪を派手な茶色に染め、ピアスを耳にいくつも付けている。
いわゆる、不良と呼ばれる人間。小柄だったが、整った顔立ちをしていた。
女子にはモテそうなタイプに見えた。俺みたいな垢抜けないタイプとは正反対に見える。
「お前、西野だろ? 確か」ぶっきらぼうに言う。顔は見た事があったが、名前は知らなかった。
同じ学年の生徒であることは知っていたが。
俺は同じクラスの生徒と、仲のいい人間以外の名前はあまり知らなかった。

「そうだけど、えーと…」名前が出てこない。
「ちっ、…荒川だよ、荒川。知らねーのかよ、お前」吐き捨てるように言う。
自分が有名人で、学校の誰もが知っていて当たり前だとでも思っているのだろうか。
「あー、そう、荒川だっけ…。で、何か用?」俺は適当に相槌を打つ。
「…お前、片瀬と付き合ってんだって? マジか?」
「…まぁ、そうだけど」既に、俺と美樹が付き合っているのは学校では周知の事実だった。
「…噂はマジみてーだな。片瀬がねぇ…、お前と? ふうん…?」ニヤニヤと笑っている。
不愉快に、口元を歪めている。

「話はそれだけ? じゃあ、俺行くから」
「まぁ、待てって。じゃあさ、こんな話知ってるか? 片瀬の」
「え? 何?」食いついたのが失敗の元だった。
「お前、あいつともうやったのかよ?」
「……は?」
「だからぁ、お前、片瀬ともうやったのかって聞いてんだよ」
「……なんでそんな事、答えなきゃいけないんだ?」
「なんだ、まだなのかよ。くくっ…じゃあ、知らねーか。はははっ」下卑た笑い声。
「…何が?」

「俺、あいつとやったんだけど。ちょっと前に」意地悪そうに、誇らしげに言う。
「……」
「悪りーな、先に頂いちまって。いい身体してたぜ? あいつ。胸もデケーしよ!」
「悪いが信じられない。そんな話は聞いたこともないし、彼女は今まで誰とも付き合ってない。誰とも付き合ってないのにそんな事を簡単にする人じゃない」
「あははは。やっぱ馬鹿だなおめー。ちったぁ頭使えよ、童貞」あからさまに敵意を剥き出しに。
しかし、どこまでも人を侮蔑する事だけは忘れないようだ。荒川は続ける。
「付き合ってなくてもセックスなんか出来るっつーの。知らねーのかよ?」
「…何が言いたい…」
「…レイプだよ。レイプ。無理やり犯ってやったんだよ、あいつをな。
な? だからお前に言うわけねーだろ? 片瀬が」
「……やめろ」心が黒く、どす黒く侵食されていく。―――憎しみによって。

「あ? なにお前、その口の利き方。 シメるぞ? あんま調子乗ってっと。
…まぁ、今はお前のもんなんだから、せいぜい大事にしてやれよ?
けどそのうち、あいつもおめーみてぇなダセー奴に愛想が尽きたら、俺のとこにでも来るんじゃね?
いや、俺が今から行ってお前から奪っちまうってのもいいかな?
そしたらお前どうするよ、なあ? 泣く? 泣いちゃう? 「返して下さ〜い!」って。ぎゃははは!」


―――血が爆ぜた。

もうこれ以上、この男に喋らせておくわけにはいかない。
理性という名の枷を引き千切る。俺の脈拍はレッドを振り切った。
一気に荒川に向かって飛び込んで行く。
「あ…!?」目を見開き、仰天して固まる彼。反撃など全く予想していなかったようだ。
俺は奴の体操着の前の襟首を掴み、力任せに校舎の壁に背中から叩き付けた。
鈍い音が空の下に響く。
「がっ! ぐぅ…!」叩きつけられた荒川は俺の腕を振り解こうとする。が、俺の腕は解けない。
俺は構わず、彼の服を掴んだまま首元を捻り上げた。小柄な彼は上に引っ張られ、爪先立ちになる。
「て、てめぇ…!」
そう言って荒川は俺の顔面に殴りかかった。が、俺はよろけもせずその拳を受ける。
爪先立ちではパンチに力も入らないし、彼は小柄で痩せていた。腕力もさほどなかった。
痛いことには変わりないが、アドレナリンに支配された俺の身体を黙らせるほどの効果はなかった。

俺は彼の顔に顔近づける。10cm程の距離で言う。
「…お前の与太話を信じるほど、俺はおめでたくはない。好き勝手に、誰にでも言ってろ。
だがな、お前がこれからもし、美樹に何か、あいつを傷つけるような事をしてみやがれ」
「あ、ああ? 傷つけたら…なんだ…ってんだ…?」
まだ虚勢を張る余力はあるようだ。しかし、目には怯えの表情が浮かんでいる。

「―――殺す。お前を」
自分でも驚くような、低くて冷たくドスの聞いた声。
「! な、なんだ…と?」呼吸が苦しいのだろう、声が掠れている。
「出来ないと思うか? 俺は嘘付きじゃない。…お前と違ってな」
そう言って俺は更に絞り上げた腕に力を込める。苦悶の表情に歪む荒川の整った顔。
「うぅ…や、やめ…ろ…わ、わかった…から…」ようやく白旗を揚げる彼。俺は手を離した。
荒川は地面に崩れ落ちる。大きく肩を動かし、足りなくなった酸素を求め苦しそうに呼吸している。
抵抗する意志はもうなさそうだった。ちょうどその時。

「にしの〜。どこ行った〜。おーい、ひーく〜ん。授業もう始まるよ〜。…って、あ、あれ?」
俺を探しに来たのだろう。秋田だった。
「ちょ、ど、どうしたんだ、お前ら!?」俺と荒川の只ならぬ姿を見て驚いて言う。
「秋田…」俺は彼を見る。体内の血はまだたぎっている。
「ち…。くそ…」そう言って荒川は走り去った。俺達から逃げるように。

「なんだ? け、ケンカか? 今の?」
「…なんでもない…」
「何でもなくないだろう!? あ、お前血出てるじゃんか!?
殴られたのか、あいつに? 平気かよ、おい!?」そう言って顔の傷の具合を見ようと近づいてくる。
「うるさい! 触るんじゃねぇ!!」俺は叫んで秋田の手を振り解く。
「っ! …ご、ごめん…」俺の剣幕に驚いて小さく謝る秋田。

「あ…」瞬間、沸騰していた血が冷え始める。冷静になってくる。
「いや、待て秋田…。悪かった。…ちょっと…頭に血が昇ってて…ごめん」
「……お、おう…。と、とにかく座れよ。あ、まず血を洗った方が…いいんじゃない?」
恐る恐る提案する。彼は少し怯えている様にも見える。
いつでも底抜けに明るい彼に、そんな接し方をされるのは嫌だった。その原因が自分にあったとしても。

俺は水飲み場で口を洗った。唇が切れていて、そこから血が流れていたようだった。
大した怪我ではなかったが、唇は少し腫れていた。


「いてて…」傷口が染みる。俺は顔をしかめた。
「も、もう大丈夫か?」
「あ、ああ、大した傷じゃない」
「いや、そうじゃなくて、お前に話しかけても平気…か?」
「あ〜、うん。いや、さっきはごめん、興奮してたから」
「そ、そうか…。しかし、お前がキレたところ初めて見たぞ? 普段大人しい奴がキレると怖えーのな?」
「……」
「何があったのよ? さっきのあいつと」
「授業、もう始まってるんだろ?」
「まぁね。いや、次、化学じゃん。で、教室から移動するのにお前の姿はないし、
おまけに制服も机の上に置いたまま。まだ着替えてもいない、授業もう始まるってのに。だから探しに来たのよ。
さっき、こっちの水飲み場行くって言ってたから。
で、見にきたらお前は口から血流してるし、もう一人は地面にうずくまってるし」

「…悪いな。わざわざ探して貰って。授業、始まってるんだろ? 行きなよ、俺も着替えていくからさ」
「……世の中には授業より大事な事もある。授業よりも大事な時がある。今はそれだと思うんだ。
少しずついろんな意味がわかりかけてるけど〜♪ 決して授業で教わった事なんかじゃない♪と、歌った人もいる」
「…尾崎かよ…。サボりたいだけじゃないのか?」笑って言った。笑える程までに、心は落ち着いてきた。
「ならいいよ、僕行くもん、…おベンキョーしに」そう言って立ち上がろうとする。
「ああ、わかった悪かった。感謝するって。友よ」俺は正直に彼に従う事にした。

「…というわけなんだよ」思い出すのも腹立たしかったが、俺は事の顛末を説明した。
「…なるほど。…そりゃあ、お前もキレるわな。まぁそんな事だろうとは思ったけど」
「そう?」
「そうだよ。だって、お前がケンカするのなんて初めて見たもん。あんなにキレてたのも」
「…うん。あんなに怒ったのは初めてだ。…ケンカしたのも。
まさか、自分から手を出す事になるとは思わなかった…」
俺は人と争うという経験自体が少なかった。怒る事も嫌いだった。
小さい頃から遡ってみても、言い争いさえ殆どした事がない。

「でも、相手が荒川じゃあ。どうせまた、ろくでもない事言われたんでしょ?」
「知ってるの? 荒川」
「まぁねぇ。まぁ、ヤンキーグループの一人だよ。俺はヤンキーとも割と仲良いけど、荒川は嫌い」
はっきりと言い切る秋田。珍しい。彼がそこまで嫌悪をはっきるさせるとは。
大体、人の悪口はあまり言わない男だった。
「なんつーか、セコいんだよ、あいつ。強い奴にはへーこらしてるけど、弱い奴、普通の真面目な奴には、えばり散らしてる。こないだも大人しい奴を苛めてたらしいな」
…納得。奴のやりそうな事だ。


「いやね、ヤンキーったって、ウチの学校はのんびりだけど、校則は結構厳しい。
髪型とかはわりと自由だけど、いじめとかやってバレれば退学にもなる。暴力には厳しい。
だからヤンキーも校内ではさほど問題起こさないし、そのリスクを考えての事か、いじめも殆どしない。
だけど、ああいう奴もいるんだよ、中には」
「……うん」
「まぁ、被害者か、誰かが言えば退学になるんじゃね? そのうち。
まぁ、見つからないようにやるあたりが荒川なんだろうけど」
「美樹の事は…」
「デマだよ。まぁ、口は達者な奴だから。頭は悪いけど。それに、あいつに女襲う度胸なんてないって。
なんでお前にそんな事言って絡んできたのかは知らないけどね。
というか、片瀬の方が強いんじゃないの? 下手したら。お前、荒川と取っ組み合ってたんだろ?」
「美樹と取っ組み合った事はないけど、そうかも…」俺達は笑った。

「でも、報復とかないかなぁ。あいつが仲間集めたりして。それがちょっと心配…」
秋田が心持ち、神妙に言う。
「それは心配ないよ。報復はない。俺の側から言わない限り、表沙汰になる事もない」
「? どうして?」
「…あいつと話してみて解かった。あと、秋田の話を聞いて確信した。
あの手のタイプはやたらとプライドだけは高い。弱い、臆病な奴に限ってそうだ。半端な不良ってやつだよ。
遊び半分にからかうつもりで絡んだのに、自分がやられそうになったなんて絶対に言わないよ。
まして俺みたいな普通の奴を相手に。しかも一対一なわけだし、こっちから絡んだわけでもないし。
手を出したのは俺が先だけど、話を聞けば誰でも怒るだろう。
手を貸す奴なんていないよ。ヤンキーでも。
いや、ヤンキーなら尚更、そういう筋道の立たない事には手を貸さない。
この話が広まったら、困るのは荒川の方だよ。
学校からも、ヤンキーの中にも居られなくなるんじゃないか」

「それもそうだな。まぁ、運がいいのか悪いのか…」
「でも多分、あいつも美樹に惚れてたんじゃないのかな?」
「どうもそんな気がするな。だから言ったじゃないか。気を引き締めろって。
片瀬の人気、やっと理解した?」
「……うん。…骨身に染みて」
「大変だぞ? 大丈夫か? やっていく自信あるのか?」
「むしろ、より強固に。…何が何でも守ってみせる。必ず」迷う事のない決意を言葉にして表した。
「…ひー君かっこいい〜!」
「首絞めるぞ…」秋田は大袈裟に逃げた。

「とりあえず、教室で待ってろ、消毒液とか持ってくるから。お前は着替えてな」
「いやいいって、自分で行くよ、保健室くらい」
「おバカさ〜ん。唇腫らして「ケンカしちゃいました先生〜」って、入ってくのか?」
「あ…。…で、でも、どうやって?」
「俺はこの学校に知らない事はない。薬のありかも、棚の鍵の隠し場所も知ってる」
「……凄い。でも勝手に持ち出しちゃ…」
「すぐに、ちゃんと元に戻す。まぁ、上手くやるから任せとけって」
そう言って秋田は保健室に向かって行った。
俺はその後ろ姿を見送り、頼もしい背中を見て思った。

―――どこまでも友達思いで頼りになる、気の利く優しい奴だ。
普段の発言の90%は下らない事ばかり言っているが、こちらが彼の真実の姿だと俺は知っている。
俺は憎まれ口ばかり叩いているが、一度として彼を疑った事はない。今も。
思わず、胸の奥が暖かくなった。目が潤んでくる。
俺は多分、学校で一番幸せだった。頼りになる友達と、優しくて可愛い彼女に恵まれていた。
ベクトルは違っても、秋田と美樹は共に学校の人気者だった。

---続く---
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