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「愛美ちゃん・・・」
愛美ちゃんは恥ずかしそうに「なあにぃ?恥ずかしいじゃん、そんな見たら。なにぃ?」
俺は、本当は「好きだよ」、といいたかったけど、なんか気恥ずかしていえなかった。
「うん、なんでもない」といってごまかすと、「なによう、いいかけて」と追及してきた。
俺は、かわりに、「僕さ、よく愛美ちゃんの夢を見てた」といった。
「えー、ほんとう?私も」
「エーどんな夢?」
「リョウ君が先に言って」
「うん、大した事ないんだけどさ、・・・」
といってから、俺は自分の夢の話をした。
「へー」
「それだけ。面白くないでしょ。はい、今度、愛美ちゃんの番」
「私のはねえ・・・ちょっと言うの恥ずかしい。やっぱやめる」
といって恥ずかしそうな顔をした。
「ずーるい、僕は教えてあげたじゃん」
「うーん、じゃ言う。私のはね、リョウ君とね、・・・海で『変なこと』してるの」と恥ずかしそうにいった。
俺は、そのとき「変なこと」というすっかり忘れていた言葉を久しぶりに聞いて、心が騒いだ。
なんか股間がムズムズとしてきた。
俺は「『変なこと』って、どっちがエッチなんだよー」とわざと意地悪そうにニヤニヤして見せた。
彼女はニコっとしたあと俺の目をじっと見て、「リョウくーん・・・・」というと急に思いつめたような顔をした。
そして「わたし、今日ね・・・」といって、視線を落とした。
「今日どうしたの?」と俺がきくと、「わたしね・・・わたしね・・・」といって声を詰まらせた。
彼女は、机の一点を見つめているようだった。
俺はすこし待った。
彼女の体が小刻みに震えるように見えた。
俺は、彼女の顔を覗き込むようにしてみた。
俺の視線に気がついて、俺の方を見た彼女の目に涙が浮かんでいた。
俺が「え?泣いてるの」と思った瞬間、彼女の口元がギュウと歪んで、わーっと泣き出した。
俺は、立ち上がると、彼女のそばに行って、彼女を抱きしめてあげた。
彼女は泣きながら、「ごめんねー・・・・・リョウ君・・・・本当にごめんね・・・・・リョウ君」とそれだけを何回も何回も繰り返した。
「いいよ・・・わかったから・・・もういいよ」という俺の目からも、涙がこぼれた。
彼女の涙で俺の学生服の前が濡れた。
彼女はしばらく俺の胸でしゃくりあげるように泣きつづけた。
そのときに不意に、ガラガラという音とともに、入り口の戸が開いて、男子が数人入ってきた。
俺たちに気がつくなり、「おっとー」「ヤバイヤバイ」「なんか、なちゃってよ」と口々にいった。
俺たちは、あわてて離れた。
彼女はあわててセーラー服の袖手で涙をぬぐって鼻をすすりながら笑った。
俺は、愛美ちゃんの手をとると、驚きのまなざしで俺たちを見ている、2年生を尻目に、教室を出た。
俺たちは、外に出ると、校舎と校舎の間を通って、学校の外にでた。
生徒が、門の周りに何人かたまっていた。
俺たちは、無視して、あてもなく、ただ、人のいないほうへ向かって歩いていった。
歩きながら愛美ちゃんは俺に聞いた。
「リョウ君って、付き合ってる子とかいるの?」
俺の頭にある女のこの顔が一瞬浮かんだが、すぐかき消した。
2年生の時にちょっとした事があった。でもその時点では付き合っているという状態ではなかった。
俺は「ううん、いないよ。愛美ちゃんは?」と聞き返した。
愛美ちゃんは何の躊躇もなく、「私もいないよ。だってこっちに来たばっかりじゃん」といった。
そのあと俺たちはしばらく何も言わないで歩いていた。
でもお互いに何を言いたいのかわかっていた。
俺たちは、畑の間の細い道を歩いていた。
周りには誰もいなかった。
しばらくして、愛美ちゃんがぽつりといった。
「わたし、また前みたいにリョウ君と仲良くしたいな」
俺は「うん、僕も」といった。
俺たちは立ち止まってどちらからともなく抱き合った。
そしてお互いの唇を求め合った。
2年半ぶりのキスだった。
俺たちはお互いの舌を絡めあった。
これでもか、これでもかというように、絡めあった。
俺は、行き先を失って、さまよっていた俺の魂が、やっと、帰るところを見つけたような、安堵感を味わっていた。
俺は愛美ちゃんのつぶった目からツーっと一筋の涙がこぼれ落ちるのを見た。
このときほど、愛美ちゃんが愛おしいと思ったことはなかった。
俺はこのとき世界中で自分が一番幸せ者だと思った。
あまり誇れた話じゃないんだけど、俺は中学2年生の頃から帰宅部だった。
そもそもは友達に誘われて一緒に剣道部に入ったんだけど、あまり面白くなくて、次第に練習をサボるようになって、2年生になる頃から殆ど行かなくなってしまった。
そして、放課後、悪ガキとつるんで悪い事をするようになった。
親たちは俺が部活に行ってないのは知ってたが、悪がきとつるんでいるのは知らなかった。
だから何も言わなかった。
でも今考えてみると、もし愛美ちゃんが帰ってこないで、あのまま、あの連中と付き合っていたら、どんどん悪い方に転がって、高校も行かず、今頃、何処かの牢屋にでも入っていたかもしれない。
事実、ヤクザになったやつもいる。
でも結果的には、帰宅部だったというのは、俺と愛美ちゃんに取ってはたいへん好都合だった。
俺たちは部活が無かったから学校が終わると自由だった。
彼女は実際は、放送部に入っていたのだけど、別に、練習なんていうものが毎日あるわけじゃないので、帰宅部と同じようなものだった。
彼女は、最初の2,3ヶ月くらい、また例の社宅に住んでいた。
そしてそのあと、彼女の家族は、新築の家に移り住んだ。
俺は毎日彼女の家経由で通学した。
そして、前みたいに土曜日の夜どちらかの家に泊まるのを許してくれた。
俺たちは中学生になっていたけど、お互いの両親にとってみたら、俺たちは前と変わらない子供に見えたのだろう、以前と同じような扱いだった。
例えば、俺たちは相変わらず、一緒にお風呂に入ってたし、同じ部屋で寝る事も許されていた。
殆ど兄妹と同じような扱いだった。
でも今兄妹という字を書いて思ったのだけど、学年は確かに一年離れているけど、考えてみると彼女は4月生まれだし俺は3月生まれだから、殆ど、同い年だったし、彼女の方が、体の発達も精神の発達も早かったから、俺は愛美ちゃんのお兄さん役では無かった。
同い年って感じか、強いて言えば、弟役に近かったのでないかと思っている。
なんにつけても、彼女にリードされていた。
それに、周りから見ても、多分俺のほうが弟のように見えただろう。
彼女は体型的には成人女性にかなり近づいていた。
服次第で、女子高生と言っても誰も疑わなかっただろう。
それに対して俺は、まだ成長期前で、子供みたいな感じだった。
でもその頃ようやく俺も少しずつ身長が伸び、かろうじて、155センチ前後の彼女と同じくらいにはなっていたと思う。
俺たちにとって何よりだったのは、両方の親が俺たちの仲を支持してくれていたということだろう。
それは、両親同士付き合いがあったのと、子供の頃からの長い実績があったので当然なのだが、巷に溢れるような、女の子の両親から「娘に手を出すな」なんていわれ、親の目を盗んでこそこそ付き合ったりするようなカップルと比べたら、なんと恵まれていたことだろう。
ただ、俺たちの本当の関係、肉体関係があったことは、親たちには絶対言えない秘密だった。
親たちがどこまで知っていたかは聞いたことがないので、わからないが、キスをしているところぐらいは目撃されていたとしてもおかしくは無いだろう。
でもそれぐらいは多めに見てくれていたのかもしれない。
大体中学生にもなればデートの最中にキスの一つや二つぐらいは、その当時でも当たり前と思われていたのではないだろうか。
いずれにしても、俺たちが、だれもが羨むほど愛し合っているのを一番良く知っているのは俺たちの両親だった。
俺たちが仲直りしたときも、俺たちの両親達は喜んでくれて、俺の両親は、早速次の土曜日に愛美ちゃんを招待してくれてケーキまで買ってきて祝ってくれた。
---続く---