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心臓がドキドキなっていた。空白の時間がすぎていく。2年生が俺たちの方を興味ありげにジロジロみながら通り過ぎていく。
あの小学校から来た生徒は全体の4分の1しかいなかったので俺たちの事を知っている子は少なかった。
俺はそこから、なんて切り出して言いかわからなかった。
昨日からさんざん頭のなかでリハーサルしてきたのに頭のなかは真っ白で台詞が浮かんでこなかった。
始業ベルが鳴った。俺はとっさに、「放課後、会える?」ときいた。
彼女は、困ったような顔をしてだまっていた。「何組?」と聞くと、彼女は「2組」と答えた。
俺は「じゃあ、あとで行くから待ってて」と一方的にいって分かれた。
その日は、一日中彼女のことばかり考えて、授業は上の空だったことは言うまでも無い。
俺は、あまた頭の中で何を言うのかずっと考え続けていた。愛美ちゃんが待っててくれるかどうかもわからなかった。
放課後、彼女のクラスにいくと、教室の端の方の机に、愛美ちゃんがぽつんと一人で座っていた。他にはだれもいなかった。
俺は、扉を後ろ手で閉めると、彼女の方に近寄っていった。彼女は不安そうな顔をして、俺の方をみていた。
彼女のところまでくると、俺は彼女の前の席に座った。俺は、心臓がバクバクドキドキして痛いほどだった。
俺は、まずリハーサル通り「こんにちは」といった。
実際に言ってみると、なんか間の抜けた感じだが、彼女もそれにこたえて「こんにちは」といった。
彼女の視線は、机の上にあった。
「久しぶり」と俺が言うと、「うん」と愛美ちゃん。それから、俺は一生懸命一日中考えていた台詞をいおうとした。
「愛美ちゃん、僕さ・・・」といいだすと、彼女は、「リョウ君、もう何にもいわないで。もう終わったことだし。私が悪いのわかってるし、なに言っても許してくれないってわかってるから」
「・・・・」
俺は、なんか出鼻をくじかれて、次にどう言葉を繋げていいか困っていると、愛美ちゃんは、俺の方を見て、「リョウ君、元気だった?」と、助け舟を出してくれた。
「うーん、まあね・・・・愛美ちゃんは?」「私は、うーん、わかんない・・」とまた視線を落とした。
「あのさ、なんていったっけ、あの男の子」
「和也君?」
「うん、まだ、仲良くしてるの?」
俺は、表向きは平静を装っていたが、実は、心の中は嫉妬心で胃がよじれるような気分だった。
彼女は間髪いれず、「ううん、あの後すぐ別かれた」といった。この意外な返答に、俺は、一気に落ち着きを取り戻した。
「ええ?」
「なんか、あの子、すごく嫌になったの。」
「なんで?仲よさそうだったじゃん」
「うーん、そうなんだけど・・」
「・・・」
「なんか、リョウ君にすごい意地悪だったでしょ?」
「うん」
俺は頷きながら、あの、ちょっと格好をつけた憎たらしい顔を思い出していた。
また、内臓をギュウと捻られるような気分になった。
「リョウ君がすごく可愛そうだった」
「・・・・」
俺はなんて応えていいかわからずに黙っていた。
「私がまんできなくて、後でいろいろ言ったら喧嘩になっちゃって・・」
「そうだっんだ」
「信じてくれないかも知れないけど、あの時も、私、リョウ君すごい好きだったから」
「でも、あいつも好きだったんだろ?」
「うん、でもちょっと違ったの」
「・・・」
「なんかリョウ君の悪口ばっかりいうから、私、リョウ君の方が好きだってはっきり言ったの」
「・・・」
「そうしたら、怒っちゃって、それから私にもいろいろ嫌がらせしてきた」
「そうか」
「なんかそれで、一気に嫌いになっちゃった」
俺は、この予想外な話の展開に少しびっくりしたのと同時に、嬉しくて仕方がなかった。
急に全身にエネルギーがみなぎってくるのがわかった。
スーパーヒーローが、やってきて、いじめっ子を、こてんぱんにやっつけてくれたような、なんともいえない爽快感を味わっていた。
「わたし、東京に行ってからさ、寂しかったから、お友達もいなかったし」
「・・・」
「あの子が親切にしてくれたの。なんかお兄さんみたいな感じで」
「・・・」
俺は無言で頷きながら彼女の話を聞いていた。
「でも最後、なんかあんなんなると思わなかった」
「そうか、知らなかった」と俺がいうと、「手紙にも書いたと思うけど・・」といって俺の顔をみた。
俺は、読まずに捨ててしまった手紙の事を思い出した。
「ああ、あの手紙・・・・あれ、読まないで捨てちゃった」
愛美ちゃんは驚いたような顔をして「ウソー、ひどい」というと、愛美ちゃんは俺の顔をにらんだ。
俺は、一瞬、いい訳を考えようとしたけど、正直に本当の事を言った。
「ごめん。だって、耐えられなかったんだよ」
「・・・」
「僕さ、愛美ちゃんの書いた宛名を見るだけでさ、あいつの顔を思い出しちゃってさ」
「・・・」
「なんか、心臓が引き裂かれるような気持ちになってさ、毎日、苦しくてため息ばっかりついてた」
「ごめんね、本当にごめんね、私なんていっていいか・・・」
彼女は下を向いた。
「いいよ。もう終わったことだしさ、忘れようよ」
「うん・・・でも、わたし・・・・嬉しい、またリョウ君と話ができるなんて」
このときの愛美ちゃんは本当に嬉しそうな顔をした。
俺は可愛いなと思った。
「わたし、またこっちに来るってわかったとき、リョウ君に会ったらどうしようってそればっかり考えてた。」
「・・・・」
「あっても、無視されるだろうなって・・・」
俺は、すこし心に余裕が出てきて「でも昨日、そっちが無視したじゃん」と意地悪くいった。
「うん、私なんか恐かったの」
「何が?」
「まだ怒ってんだろうなと思って」
「俺、そんな顔してた?」
「わかんないけど、なんて言っていいかもわからなかったし」
そして、「ふー」と大きく息をすると、愛美ちゃんはうれしそうにニッコリ笑って「でもよかった。リョウ君まえと変わってなくて」といった。
「僕はもっと早く大きくなりたいたけどね、僕だけいつまでも子供みたいでさ」
「でも、ちょっとおっきくなったんじゃない。」といって、愛美ちゃんは俺の足の先から頭のてっぺんまでながめた。
「うん、そうかも、でも愛美ちゃんは随分変わったね、最初だれだかわかんなかった」
「私も大きくなった?」
「ていうか、ちょっと太くなったんじゃない?」
「いやだあ、もう、気にしてんだから」
「それに、すごいじゃん」といって、俺は自分の胸の前に両手を持ってくると、大きなおっぱいの形に動かした。
子供の頃から肉付きの良かった彼女は、女性的な肉のつき方をして、さらにムッチリ度が増していたが、特に2年間のうちに胸は良く発達して、セーラー服が窮屈に見えるくらいになっていた。
「えっちー」といってい愛美ちゃんは俺のおでこをポンと叩いた。
俺は、嬉しくて仕方が無かった。
愛美ちゃんとこんな風に喋れる日が来るなんて、つい二日前まで思っても見なかったのだから。
思えば俺は、その前の二年間、愛美ちゃんの事を自分の心の中から消そうといつも努力しつづけていた。
ほんの30分ほどの間に、俺たちは、以前ののりを取り戻しつつあった。
驚異的だった。
俺は、ぽんぽんと軽い会話を交わしながら、大人の女性になりつつある愛美ちゃんに新たに魅了されていた。
---続く---