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「滋さん、一緒に帰らない?」
周りの視線が二人に集まった。
「うん、帰ろうか」
滋が頷くと美千代が腕を抱えて来た。あちこちでひそひそ話が始まった。明日になれば校内中にこの話が知れ渡っているだろう。当然寛子の耳にも届く筈である。
美千代の家は一つ手前の駅だった。電車がホームに着くと美千代が滋の手を引いた。
「うちに寄ってって」
「うん」
そう言いながらも美千代は家とは反対の出口へ向かった。スーパーの二階に百均がある。
「携帯のストラップ、探そう」
美千代が滋の手を取って売り場を歩き回る。すぐにストラップの棚が見付かった。
「何でストラップが要るの?」
滋が聞いた。
「だって、滋さん、携帯持って歩かないんだもん。首から提げてれば忘れないでしょ」
美千代がフックから何本も取って代わる代わる滋の首に掛けた。
「これがいいかな」
美千代が選んだのは黒とグレーの市松模様のものだった。滋もその色がいいと思った。美千代がもう一本同じものをフックから外した。
「私とお揃いでもいいでしょ?」
美千代はいかにも楽しそうだった。次に向かったのは食器売り場だった。美千代がマグカップを幾つか選んだ。
「滋さんはどれがいい?」
「このカップ、どうするの?」
「遊びに来た時に二人で飲むの。だからお揃いにしたいの」
他にもケーキ皿やスリッパが二つずつ籠の中に入った。レジに持って行くと全部で千五十円だった。
「百均って好き。こんなに買っても千円ちょっとだから」
美千代がカップとケーキ皿を新聞紙でくるむ。滋も手伝った。
「お茶、飲んで行こう」
美千代が近くの喫茶店に入って行った。滋が百均で買った包みを持って美千代の後を追い掛けた。
「楽しいね」
一番奥の二人掛けの席に座ると美千代が滋の目をジッと見詰めた。
「うん」
滋も美千代の目を見た。美千代でもこんな顔になるんだ、と滋が感心した。高校生らしいあどけない顔だった。これまでの美千代は無理して自分を作っていたのかも知れない。今の美千代を滋は可愛いと思った。
「滋さんと一緒だと、気持ちがすごく楽になるの」
「どうして?」
「この間ひっぱたいてくれたでしょ。あれで肩の力が抜けちゃったみたい。ひっぱたかれたの、あれが初めてだったの。何か嬉しかった」
滋の脳裏に寛子の顔が浮かんだ。ね、言った通りでしょ、と笑っていた。
「うちに寄る?今日はママがいるけど」
「今度にしよう。その時は今日買ったカップで紅茶でも入れて」
「うん。滋さんがケーキ買って来てくれると嬉しいな」
喫茶店を出た二人が美千代の家への曲がり角まで来た。角を曲がると人影は無かった。
「じゃ、電話するから。携帯、いつも持っててね」
滋が買って来た包みを渡すと美千代が唇を寄せた。ほんの一瞬、二人の唇が触れ合った。
家に戻った滋がストラップを貰い忘れたことに気が付いた。部屋に戻って携帯を見るとメール着信のランプが点滅していた。まだ自分からメールを打つことはできないが、読むだけなら何とかなる。
「ストラップ忘れちゃったね 今度渡すから 美千代」
メールを読み終わったところに寛子が入って来た。
「どうだった?今日のデートは。こんなに早いんじゃ、エッチは無しね」
もう噂が伝わってるな、と滋が思った。
「帰りに百均寄って、お茶飲んで帰って来ただけだよ」
「ふうん、それで、美千代はどんな様子だった?」
「楽しそうだった。お揃いのストラップとか買って喜んでた。貰うの忘れて帰って来ちゃったけど」
「お子様デートか。もしかしたら、美千代は初めてだったかも」
「何で?」
「あの子、美人でスタイルもいいじゃない。ずっとチヤホヤされて来たのよ。エッチの相手だってそんな取り巻きの中から格好いい男ばかり選んでたわ。きっとお兄に迫ったみたいに誘惑したんじゃない?」
「かもね。じゃなかったら携帯で呼び出して、裸で部屋で待ってたりしないよね」
「お兄、よく我慢したね」
「全然。あんなんでエッチしたって、全然興奮しないよ」
「お兄、卒業かな?」
「えっ、ああ、その話。でも、寛子からは卒業なんてしないよ。ずっと留年するさ」
「ほんとに?美千代がいても?」
「美千代には悪いけど、それだけは譲れない」
「困ったね」
「ふん、全然困ってないくせに」
「ばれたか。あ、ママが帰って来た」
寛子が慌てて口付けして部屋から出て行った。
次の日も美千代は放課後迎えに来た。私はこの人と付き合っているのよ、と見せ付けているような気がした。何か違うな、と滋が違和感を感じた。
二人でケーキを買い、美千代の家に寄った。その日は母親が家にいた。
「いらっしゃい」
美千代の母親は本人以上に美人だった。ただ、美千代に輪をかけて高慢な感じがした。その母親が無遠慮に滋をジロジロ眺めた。
「お茶の用意は私がするから」
美千代が先に滋を応接間に通し、台所でお茶の用意を始めた。
「高校のお友達?」
母親が聞いた。
「ええ、僕は三年です。妹が美千代さんと同級なんです」
「お父様は何をなさってるの?」
何でそんなことを聞くのか、ちょっと気分を害したが顔色には出さずに答えた。
「アンモニアタンクの建設で外国に行ってます」
「建設の方なのね」
滋は技術者だと言い直そうと思ったが、その言葉を飲み込んだ。母親の指には大きな宝石が付いた指輪が二つはめられていた。気が付くとスリッパにも高級ブランドのロゴが入っている。うちとは違うんだ、滋がそう思った。
美千代が紅茶とケーキを運んで来た。カップも皿も百均で買ったものではなかった。
「それじゃ、ゆっくりして行ってちょうだい」
母親が立ち上がった。
「そうだ、美千代。明日の晩はロータリークラブのパーティがあるから、忘れないでね」
「はい、ママ」
滋はわざとらしい言い方だなと思った。今言う必要など無いことである。そう言えば美千代の父親は大きな医院を開業している。今日母親を見て、美千代の高慢さが分かったような気がした。こんな家で育ったのだから、自然にそれが身に付いてしまったのだろう。
「そう言えば滋さん、大学はどうするの?」
紅茶を飲みながら美千代が聞いた。
「一応第一志望は早稲田の文学部だけど」
「ふうん、文学部なんだ」
美千代が一瞬母親と同じ表情をした。滋が話題を変えた。
「そう言えば、この間のカップとか、どうしたの?」
「ママがこんなの出したら恥ずかしいって」
どうやら捨ててしまったらしい。これ以上美千代には深入りしたくないな、と滋が思った。
滋の伯父も医院を開業している。その伯父は飾らない人で暮らしも質素だった。近所ではオンボロ医院で有名である。いとこ達が独立したらアフリカに行って奉仕活動をしたいと言っていた。伯母も一緒に行くつもりらしい。同じ医者でも随分違うものだと滋が思った。
美千代は滋のようなタイプとは初めて付き合ったのだろう。それが新鮮で滋に合わせているのだろうが、そんな付け刃はすぐに剥がれる。価値観の物差しが全く違う。母親も滋は気に入らなかったらしい。どうやって美千代と別れるか、寛子が頼りだなと思った。
「えー、美千代と別れたいって?」
その晩、寛子が素っ頓狂な声を上げた。
「何でまた」
「全然波長が合わない。美千代のママ見たら、美千代が何であんなに高慢なのか、よく分かったんだ。最悪だね」
「そんなに非道いの?」
「パパの仕事聞かれたから、建設で外国に行ってるって答えたら、凄く馬鹿にしたような目で見てた。会社の名前までは言わなかったけどさ」
「お兄がそう言うんなら間違い無いね。やっぱりそうなんだ」
「それで、上手いこと別れる手、無いかな?」
「そんなの簡単よ」
「上手い手、ある?」
「任せなさい。そういうことはお兄よりずっと経験豊富なんだから。お兄はこれまで通りでいいよ」
寛子は美千代からの誘いを待った。また家が留守になれば誘って来ると思ったのである。恐らく土日のいずれかになるだろう。案の定、次の土曜、滋の携帯が鳴った。
「滋さん、明日の日曜大丈夫」
「うん。特に何も無いよ」
「じゃ、十時に来て」
「うん、十時ね」
「待ってるから」
横で聞いていた寛子が親指を立てた。
「さ、万里子の出番だわ。お兄は明日約束をすっぽかして。後のことはこっちでするから」
寛子が滋から携帯を受け取ると自分達の部屋に戻って行った。
翌日、滋は美千代の家に行かなかった。携帯は寛子が持って行ったままなので何も分からない。当然その携帯に美千代から電話が入っているはずである。寛子も万里子もどこかに出掛けて家にはいなかった。
昼過ぎに寛子が戻って来た。滋が玄関を開けると親指を立てながら入って来た。
「オッケー、終わったよ」
「何したんだ?」
「へへ、ちょっと悪戯って言うか、からかってやった。私じゃ声でばれるかも知れないんで、万里子にやらせたんだ。名演技だったよ」
「ねえ、何か言われたら困るから、何をしたか位教えてよ」
「万里子をお兄の彼女に仕立てたの。それで、十時ピッタリに電話が来てさ」
寛子がその時の会話を再現してみせた。
「滋さん、今どこ」
「あんた、誰?」
「・・・・・・」
「滋に何か用。取り次げばいいの?」
「・・・・・・」
「滋、今シャワー使ってるけど、渡そうか?」
「・・・・・・」
「何か言ったら。言わないんなら切るよ。まだこれからなんだから」
そこまで万里子の声色を真似した寛子がニッと笑った。
「ね、万里子もやるでしょ?」
「本当にそうしたの?」
「そうよ、やるからには徹底的にやらないとね」
滋が考え込んだ。
「明日が怖そう」
「大丈夫よ。絶対来ないって。それで、この携帯は履歴とか全部消して彼女んちのポストにでも入れとけば」
「何で消すの?」
「お兄の彼女が消しちゃったと思わせるのよ」
滋が寛子の顔を見詰めた。
「やっぱり寛子が一番怖いな」
「ふふ。女はいざとなれば強いんだよ。好きなお兄のためなら何でもできるさ」
翌日、授業が終わっても美千代は迎えに来なかった。校庭ですれ違ったが、プイと横を向いて知らん顔だった。
家に戻ると寛子が部屋で待っていた。
「寛子の言う通りだった。顔背けてたよ」
「でしょ?もう二度と来ないわ」
ドアが開いて万里子が顔を出した。
「へへ、演技賞ものだったでしょ」
「寛子から聞いたよ。ご苦労さん」
「これでお兄に貸し一つね。エッチ五回かな」
寛子が苦笑した。
「あんた、まだする積もり?」
「ううん、今すぐじゃないよ。お姉とじゃ勝負にならないもん。あと二年か三年したら、その時ね。そうだ、いいこと教えて上げる。ママ、今日は学年の役員会だよ。その後で懇親会があるからって。晩ご飯、冷蔵庫だってさ」
寛子が途端に表情を崩した。
「懇親会って何時から?」
「七時。終わるの九時過ぎだと思うよ」
「やった。万里子、部屋借りるよ」
「分かってる。聞いてると切なくなるから、遊びに行って来るよ」
「サンキュー」
万里子が出て行くと寛子が滋の手を取った。
「行こう」
部屋に入ると寛子があっという間に服を脱ぎ捨てた。もたもたしている滋のズボンを脱がせる。
「久し振りだね」
寛子が先にベッドに寝た。滋が逆向きに被さって行った。
「また始まっちゃった。でも、まだほんの少し」
寛子が顔を上げて滋をくわえた。滋も寛子に口を埋めた。寛子の口が激しく動く。昨日は母親が遅くまで起きていたので何もできなかった。滋が先に顔を上げた。
体勢を入れ替えた滋が寛子の中に入って行った。寛子が足を思い切り振り上げた。
「やっぱり寛子じゃないと」
滋が腰を振りながら言った。
「振り出しに戻っちゃったね」
寛子も滋に合わせて尻を回し始めた。話が途切れた。ねっばっこい音だけが部屋に響いた。
「お兄、いいよ、すごくいい」
寛子が声を上げた。滋はそれに答えず更に動きを強めた。吹っ切れた気分だった。暫くしていなかったせいかきつさが新鮮である。寛子も同じらしい。突き上げた足が二段ベッドの上の段に突っ張っている。
腰が浮き、違うところが擦れた。強めに抜くと寛子の襞が追い掛けて来る。すぐに入れ返すとその襞が捲れ込み、一呼吸置いてからスルッと戻った。奥に届いた先端がひしゃげた。
「いってもいいよ。お兄、いってもいいよ」
それでも滋は動きを止めなかった。寛子のヌメリが増した。滋の尻が何度も二重丸を描いた。
「い、いっちゃう」
寛子の爪が滋の背中に食い込んだ。足がバッタリ落ちた。部屋中に寛子の匂いが充満している。久し振りに嗅ぐ寛子の匂いだった。
「やっぱり寛子じゃないと駄目だな」
滋がまた同じことを言った。
「当たり前だよ」
寛子が顔を上げて唇を付けた。
「私以上にお兄のこと思ってる女なんて、いないよ。美千代で分かったでしょ?」
「うん」
「でも、私とこうなってなかったら、お兄、きっと美千代に参ってたね」
「だろうな。何も知らないで裸見せられたら、フラフラッて抱いてたような気がする」
「お兄だけじゃないよ。みんな一杯エッチしてるけど、中身は美千代と似たり寄ったり」
「寛子が基準だと、エッチしたくなるような子っているのかなあ」
「さあ、先のことは何とも言えないけど、私は自信あるよ。お兄を好きだって気持ちは誰にも負けないと思う」
滋がピクッと動いた。
「えっ、もう元気になったの?」
寛子が呆れたような顔をした。
「ちょっと休ませて」
仕方無いという顔で滋が乳首を摘んだ。
「もう、それじゃ休みにならないよ」
寛子が尻を振った。滋がますます元気になった。
「困ったね」
寛子の目が奥二重になった。
「いいよ、動いても」
滋が頷いてゆっくり動き始めた。
「やっぱり寛子じゃないと」
「困ったね」
五年先、十年先になっても同じことを言っているような気がした。
---続く---