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ソファに横たわった伯母の無心な瞳だけが動いて、男の顔を見上げる。
「いい顔をしているね。でも―――本当に俺が見たいのはそんな貌じゃないのさ」
独り言めいた呟きは、先程までとうってかわって不穏な冷酷さに満ちていた。
「君は―――大事なことを忘れているよ」
「大事な・・・・こと」
ぼやけた精神をそのまま反映した溶けた瞳に、不安げな光が宿った。男は薄く笑いながら、舞台役者のような動きで伯母の後ろにまわった。
頼りないほど細い伯母の肩口から男の手が伸びて、すべすべとした下腹の乳白色の肌をさらさらと撫でた。
「この子の―――父親のこと」
「父親・・・・・」
「そう。失われた君の父親ではなく、現実生活において君の半身だった男さ。彼はようやくおかあさんになれた君に、なんと言っていたのだったか」
催眠状態にあるひとのように無垢そのものの表情をさらしていた伯母の顔に、鋭い怯えがはしった。
「彼は言ったのだろう―――」
「『こんな子はいらない』、と―――」
ぐしゃり、と―――
伯母の表情が、歪んだ。
「ひーっ」と「あーっ」の中間にあるような、奇妙な叫び声がその喉笛から洩れた。
その叫びは次第に響きを変えていき、最後には絶え間ない嗚咽となった。
ひとり取り残された赤子のような、傷ついた獣のような嗚咽に。
泣きじゃくる伯母を、男は冷然と見つめた。
その顔は幽鬼のように蒼い。
視線の先はただ伯母だけを向いている。
その伯母の総身が小刻みに震えはじめた。
「あっ・・・・あっ・・・・!」
嗚咽とは明らかに違う、微熱まじりの吐息が零れはじめる。
裸の腰が浮くような動きを見せ始めた。
顔を上げ、伯母は背後の男を振り返る。
涙でぐしゃぐしゃになったその瞳に、愕然としたものが浮かんでいた。
「ようやく効きはじめたようだね」
やさしい線を描く下腹を撫でていた無骨な手が、雪白の乳房のとがりを摘む。
その瞬間、伯母は反射のように目を細めた。一瞬の後、再び見開いたその瞳には、先程までの驚愕は消えていた。
その代わりに浮かんでいたのは、明確な形をとった絶望だった。
「い・・・・や・・・・・っ」
切れの長い目の端に滲んだ涙を、顔を寄せた男の舌が舐めとる。
ざらりとした舌はそのまま伯母の端整な耳を舐め、それから妖しいほどなめらかな頸筋に伸びた。同時に男のふたつの手は、白い胸乳の両方に覆いかぶさり、柔弱な肉の弾力を愉しむようにゆったりした愛撫を繰り返す。
伯母の顔が天を仰ぐ。突っ張った喉が、時折、うくっ、うくっと何かを呑み込むような動きを見せる。精神に網をかけられ、花芯に薬物を塗布されていたときには弛緩しきっていた躯が、今は彼女の意思と無関係にざわめきだち、或いは張りつめているようだった。
しなやかな頸が左右に振りたてられる。その度に豊かな髪がはらはらと乱れる。その一筋が落ちて、男の手で揉みこまれ、つんと上向いた乳房に貼りついた。
「いい貌になってきた。湯気がたちそうなほどに身体も熱くなっている」
男の囁き声がする。
湯気がたちそうなほど―――と男は言ったが、実際、遼一の目にはもやのようなものが伯母の全身から湧き立ち、ゆらゆらと妖しく揺らめいているように見えた。
「やはり瑞希には母の顔よりも、牝の貌のほうがよく似合うね」
吐く言葉の口調は相変わらず悠然としているのに、男の手指の動きは次第に荒々しくなっていた。両手を拘束されているために無防備にさらけだされた腋下から、淡く萌えた恥毛の周辺まで男の指は隈なく伸びて、執拗に女体の敏感な部分をまさぐりたてる。
敏感な部分―――いや、そうではない。今の伯母にとっては、敏感でない部分など存在しないのだ。ギターのどの弦を爪弾いても音が鳴るように、つやつやとした肌の、男の手が触れるすべての箇所が、過敏になった神経に鋭く跳ね返っているようだ。
けれど、それだけの情態に伯母を追い込みながら、そのもっとも敏感な部分には、男は触れようとしなかった。
汗の濡れひかる肢体がしなる。伯母の腰から下は別の生き物のように、くいっ、くいっと宙に浮く動きを繰り返した。求めて得られないものを、無意識に狂おしく追いかける動きだった。
それはまるで、うねり舞う白蛇のように、遼一の目に映じた。その白さと、その生々しさに、遼一の視界は占拠された。
また、伯母の肢体がしなった。
先程は嫋々とした吟声だったものが、今は甲高く、鋭いよがりなきに変わっている。
乳房を弄っていた男の手が、細やかな顎を掴んで振り向かせた。
男の口が半開きの伯母の唇に覆いかぶさる。
口を押しつけられながら、伯母の瞳は開ききっていた。その瞳は先程までとは違う狂気に支配されていた。
性という名の狂気に。
そして遼一は、男の口づけに情熱的に応える伯母を見た。
男の顔が離れる。
伯母の唇の端からは薄く唾液の糸が引いていた。
太い指がそれを拭った。むしろ呆然とした顔で、伯母はその手を受けた。
くすり、と男がわらう。
「妻でもなく、母でもなく―――」
ただの牝こそが君にはふさわしい―――
男はそう言って、細頸に嵌められた無骨な首輪に指をかけ、くいっと引き寄せた。
「あうっ!」
伯母の眉根が苦しげにたわめられた。
「犬になればいい。いつでもはしたなく尻を振りたくって男を誘う、発情した牝犬に。道徳も、倫理も、過去も、今までの生活もすべて捨て去って。そこに君の本当の幸せがある―――」
そう語る目に燐光が漲っていた。
苦しげに細められたままの伯母の瞳が揺れ、弱々しく頸を振る。
また男の手がすっと伸びて、しどけなく緩んだ太腿の最奥、充血し、あふれきった狭間の上部に屹立した果芯を撫であげる。
声なき声を伯母はあげた。いのちそのものに触れられたように、足指の先までが痙攣したのが分かった。
すぐに男は手を離した。
伯母の痙攣はまだやまない。
「触られただけで軽いアクメに達したのかね―――」
伯母は答えない。いや、答えられない。
「もっといきたい、もっと気持ちのいいことをしてもらいたい―――君の全身がそう訴えているようだよ。腹の子供もきっとそれを感じとっている―――」
男の指が伯母の唇をすっとなぞった。
がくがく、と伯母は頸を左右に振る。
「不安になることはない。母親の至福は子供の至福だよ―――」
そう言って―――
男は悪魔の微笑を浮かべた。
玩弄が再開される。
ううっ、ううっ、と獣のような声が、なよやかな女の喉から止めようもなくあふれる。
くるってしまう―――
一瞬、人の声が、そんな短い叫びをあげた。
それが誰の声なのか、もう遼一には分からなかった。
遼一の膨れ上がった心身はとうに弾けている。
飛散し、ばらばらになってこの空間に混じり合っている。
自分がここに在るのは、もうただの熱としての存在だけだ。
「このままでは本当に狂うよ―――」
空間と一体化した意識のなかで禍々しい声だけが響く。
「それが厭ならばこう言うだけでいい―――」
犯してほしい、と―――
牝犬になります、と―――
「ただ、それだけで君の至福は約束される―――」
ただ、人を捨てるだけで―――
誰のものとも知れぬ声が、そう、結んだ。
---続く---