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居間に入って彼が目にしたものは、床中に転がった酒瓶と、酔いつぶれて寝ている父親の姿だった。
「どうしたんだ、親父」
慌てて父のもとに駆け寄り、抱き起こす。父は酒臭い息を吐きながら、薄目を開けた。その目元には汚らしい目やにと、涙の跡が付いていた。
「ううう・・・」
父は何かよく分からない言葉を呟きながら、弱々しくテーブルの上を指差した。
父の指差した先には一通の封筒があった。中には一通の手紙と離婚届、それと五十万の小切手が入っていた。
忠志は手紙を広げた。見慣れた母の筆跡だった。
あなたと忠志には大変申し訳ないことをしてしまいました。
許してくれとは言いません。どうか、憎んでください。罵ってください。
そのほうが私にとっても、まだしも救いになります。
離婚届を同封しておきました。私の署名は済ませてあります。勝手なことばかり言うなとあなたはお怒りになるかもしれませんが、どうか、私のような人でなしのあばずれ女のことなどは忘れて、新しい人生を送ってください。
これから毎月、五十万円のお金をあなたへ送ります。これだけはどんなことがあっても続けるつもりです。私のような女の送ったお金など、あなたは気分が悪くて使う気にもなれないかもしれませんが、私のせめてもの償いを受けてくださることを希望します。
あなたと忠志の幸せを心からお祈りしています。
どうか御身体に気をつけて、よい人生を送ってくださいませ。
最後にもう一度書かせてください。
本当に、本当にごめんなさい。
忠志は手紙を読みながら、涙を抑えることが出来なかった。テーブルに突っ伏している父親の襟首を掴んで引き起こすと、噛み付くように言った。
「いったい、何があったんだよ! 母さんはどうして出ていったんだ!!」
父親はぼんやりとした顔で息子を見返した。やがてその瞳から、涙がぶわっと噴き出した。
忠志は今、自室のパソコン画面に向かっている。
父親の話では、ここ最近の間になぜ母が奇怪な変貌を遂げ、挙句の果てに失踪してしまったのか、まるで分からなかった。
だが、忠志にははっきりとした直感があった。
やはり、あの「M熟女・公開露出」で痴態を晒している女は母だったのだ。母は何かのきっかけで「管理人S」と知り合い、激しい調教を受け、ずるずると淫欲の沼へ引きずりこまれていったのだ。
「M熟女・公開露出」のトップページを見る。そこにはちかちかと点滅する赤文字で、「緊急告知」と出ていた。忠志はその文字をクリックする。
<緊急告知!>
いつも当サイトをご利用いただき、ありがとうございます。この度、当サイトでは、性奴隷M子の公開調教を行うことに決めました。その調教へ参加してくださる方を募集します。
参加費は有料でお一人様、三万円です。ぜひ参加したいという方は、管理人Sにメールをください。日程と場所をお知らせします。
忠志はしばらくの間、鋭い目でその文字を追っていた。それから管理人Sに参加希望のメールを送った。一時間ほどで返信があって、調教の日程と場所を知らせてきた。
次の日曜が、その公開調教の日だった。場所は東京近郊の怪しげな店である。
忠志は二階の自室から、一階へ降りた。
居間では父親が相変わらず、酒を飲んでいる。今までも仕事が上手くいかないとき、父はこうしてよく酒を飲んで気を紛らわせていたものだ。違うのは、こうしたとき、いつもその傍らに寄り添い、暖かいまなざしで父を見守っていた母がいないことだった。
母を失った父がまるで途方に暮れた迷い子のように見え、忠志の胸は痛んだ。
「親父」
忠志は呼びかけた。父はぴくっと身体を動かしただけで、返事をしなかった。
「母さんの居場所が分かった。たぶん東京にいる。俺は今から東京へ行ってくる」
「やめておけ」
父は絶望の極みといった声を出した。
「あれの様子は普通じゃなかった。お前が何といっても、もう戻ってこないと思う」
父の言葉に忠志はカッとなった。
「だからって放っておけないだろうが・・・! だいたい母さんが出て行ったとき、親父は傍にいたんだろ・・? どうして止めなかったんだよ・・・。母さんを愛してるんだろ? 見苦しくても、惨めでもいいから、母さんにすがりついて『行かないで欲しい』と言えばよかったんだよ・・・! そのほうが今みたいに飲んだくれてメソメソ泣いているより、よっぽどマシだったはずだ!!」
忠志は怒鳴った。悲しみに暮れる父に対してこんな言葉を投げつけることに罪悪感はあったが、何もかも吐き出さずにはいられなかった。
「それに・・・このままじゃ母さんが可哀相すぎるだろ・・・。どんな理由があったにしてもさ・・・。送ってきた五十万円だって、どうやって女手ひとつで稼いだっていうんだ?
これからもどうやって稼ぐっていうんだ? きっと悲惨なことになってるんだ。母さんをそんな目に遭わせて、のうのうとしていられるかよ!!」
父は顔を伏せて、何も言わなかった。その肩が小刻みに震えているのが見えた。
忠志はしばらくそんな父の姿を見ていた。荒涼とした風が心を吹き抜けていくのを感じた。
やがて忠志は居間から出て行った。
---続く---