禁断と背徳の体験告白
前の画面 総合トップ 閲覧履歴
官能小説

ヒッチハイク|初対面・一目惚れ

お気に入りお気に入り登録済み

←前の作品  目次
    文字サイズ---
  • LL
  • L
  • M
ヒッチハイク

読了目安 46分02秒

[作品No 2] 2024/11/10(Sun)
前編][後編

[前編]
 久しぶりの休暇だった。ここ数ヶ月、矢島は大きなプロジェクトに時間を取られて殆ど休めなかったのである。休日出勤も毎月一度や二度ではなかった。ようやく仕事が一段落したのでリフレッシュ休暇を取ることにした。未消化の有休と休日出勤の振り替えも含めて連続二週間の休暇になった。
 土曜は混雑するので一日家でのんびり過ごし、日曜の昼過ぎに車で出掛けることにした。目的地の無い、行き当たりばったりの旅である。車は四輪駆動のミニバン。宿が見付からなければ後ろの座席で寝ればいい。ゴールデンウィークにはまだ間があるこの季節だが、寒さは問題無いだろう。
 今年本厄の満四十一歳になる矢島は現在一人暮らし。女房とは三年前に別れた。一人娘の久美子は二年前から京都の大学に行っている。だからこそ出来る今回の気ままな旅だった。
 日曜とは言ってもこの時間の首都高は結構混んでいる。馬事公苑から裏道を抜け、用賀から東名に乗ることにした。環八は思っていたよりも車が流れていた。用賀インター入り口の手前で若い女の子が親指を立てている。どうやらヒッチハイクらしい。
(女の子一人ってことはないだろう。多分、後から男が出て来るはずだ)
 そう思いながら何となくスピードを落とすと女の子の表情が嬉しそうに変わった。矢島はまだ一度もヒッチハイクを乗せたことが無い。少し迷ったが、それも一興と車を止めた。助手席の窓を下ろすと女の子が駆け寄って来た。
「いいですか?」
「乗せてもいいけど、一人じゃないんだろう」
「いえ、私一人です」
「いいよ。乗りなさい」
「わあ、ありがとう」
 後ろの座席に乗ると思ったら助手席のドアを開けて矢島の隣に座ってしまった。矢島が車を発進させながら窓を閉めた。
「一人でヒッチハイクなんて、危なくないか。それも男の車に」
 乗せておきながら矢島がそう話しかけた。
「へへ、ヒッチハイク、今日が初めてなんだ」
「ますます不用心だ。君みたいな若い女の子だったら、乗せる方に下心があっても不思議は無いんだぞ」
「下心、ありますか?」
「全然無いと言ったら嘘になるかも知れないな。こっちもヒッチハイク乗せるのは今日が初めてだ。ところで、どこまで行きたいの?」
「別に、どこでもいいんです。適当なところまで乗せてって下さい」
「こっちも行き当たりばったりだ。それでいいか?」
「うん、どこでも」
「やっぱり危なっかしいな」 
 東名に入って暫く走ると海老名パーキングエリアの標識が見えて来た。
「何か冷たいものでも飲むか?」
「はい」
 日曜日の下り線だがパーキングは案外混んでいた。缶ジュースと無糖の缶コーヒーを買って車に戻る。再び走り出すと反対車線では既に帰りの渋滞が始まっていた。
「大学生?」
「ううん、今年、短大卒業したばかり。就職が見付かんなくって、今はフリーター」
「そんなんで暮らして行けるの?」
「食べて行くだけでやっと。旅行なんて絶対無理。折角卒業したのにさ。このままじゃ詰まらないから、ヒッチハイクでもしようかなって思ったの」
 既に四月に入っている。これからの正規採用は難しいなと矢島が思った。
「変な男に引っ掛かったらって考えなかったの?」
「その時はその時。そう言うスリルもちょっぴり面白いじゃん」
「困ったもんだ。でも、こんなオジサンで期待外れだったな」
「若いのはパス。勿論、もろオジサン丸出しも最悪だけど」
「オジサン丸出しか」
 矢島が苦笑した。
「うん、オジサンってさあ、顔とか額とか脂でギトギトって言うかテカテカしてるじゃん。そいでもって必ず胸とかお尻とかジロジロ見る奴ばっか」
「俺だって立派なオジサンだよ」
「うん。でも何か違うんだなあ、他の人と。他にも止まりそうな車、結構あったんだよ。とぼけてやり過ごした車、五台くらいあったんだ」
「ふうん、俺は合格だったって訳か?」
「私ね、人見る目、あると思うよ」
「それはどうだか。俺の車選んだ位だから」
「口だけでしょ?」
「そんなこと言ってると、オジサン丸出しにするぞ」
 矢島が女の子の胸の前で左手をニギニギして見せた。
「いいよ、触っても」
「馬鹿、冗談だ」
 矢島は思わぬ答えにドキッとした。ハンドルを握った掌が汗で滑る。暫く会話が途切れた。
「そう言えば、名前聞いてなかったな。俺は矢島だ」
 言ってしまってから我ながら馬鹿な質問だなと矢島が思った。行きずりのヒッチハイク。お互いに名前など必要無いはずである。
「相馬、相馬玖美子です。普通は久しいって書くけど、私のは王偏に久しいって字なの。大字の九とか、黒い宝石って意味らしいけど」
 女の子も抵抗無く自分の名前を告げた。字まで説明したくらいだから本名なのだろう。矢島自身、玖に黒い宝石という意味があることは知らなかった。
「玖美子さんか。よろしく」
「こちらこそ」
 字こそ違うが娘と同じ名前である。短大を出たばかりなら年も娘と変わらない。娘も外では似たような感じなのかと矢島が思った。
 矢島が娘の久美子と旅行したのはもう何年も前のことである。確か中学生の時に一緒にスキーに行ったのが最後だろう。高校生になってからは、やれ部活だ何だと言って一人で出掛けて行くことが多くなり、矢島と一緒の旅行など全く興味を示さなくなった。ま、それが普通なのだろうが。
 車は御殿場の登りに差し掛かっている。
「さて、まだ時間も早いし、どこに行こうか」
「この辺だと箱根とか富士山も近いんでしょ」
「うん。富士山はまだ無理だな。もうすぐ除雪が入って連休前には開くだろうけど」
「じゃ、箱根がいいかな?中学校の遠足以来、行ったこと無いんだ。正月の駅伝をテレビで見るだけ」
「そうするか」
 御殿場のインターで下りた矢島は芦ノ湖に出て遊覧船に乗るのも芸が無いと思い、乙女峠には向かわず芦ノ湖スカイライン方面に右折した。
「湖が見える。芦ノ湖よね?」
 助手席側に時折芦ノ湖が姿を現した。
「車で走るだけじゃ面白くない。どっか停めて歩こうよ」
 玖美子が矢島の袖を引いた。
「そうだな。そのうちパーキングがあるだろう」
 日曜の午後遅い時間なので思ったより車は少ない。暫く走ると左手に小さな展望台が見えて来た。
「あそこに停めよう」
 十台くらい停められるスペースが半分埋まっていた。芦ノ湖側が開けている。
「ねえ、ちょっと歩こう」
 玖美子が矢島の腕を抱えて歩き出した。木立の中に微かな踏み跡が続いている。暫く歩くと藪が深くなって来たので玖美子が手を離して後ろに回った。かなりの勾配で登りになり、二十メートルほど先が小さなピークになっていた。生憎木立に囲まれて展望は無い。
「ちょっとお休み」
 玖美子が脇の草むらに腰を下ろした。矢島も隣に並んだ。
「木の匂いかしら。いい気分」
「これで車の音が聞こえなければ最高だけどね」
 すぐ後ろを時折車が通り過ぎて行く。矢島が改めて玖美子の横顔を眺めた。唇も鼻も小作りな割に目が大きい。二十歳の肌は滑らかで、化粧しているようには見えなかった。口紅くらいは付けているのだろうが、それも自然な感じで殆ど分からない。そう言えば娘の久美子も普段は全く化粧しなかった。無意識のうちに娘と比べている自分が可笑しかった。
 玖美子の目が突然矢島に向けられた。手を伸ばせば届く距離で二人が見つめ合う。矢島は途端に息苦しさを覚えて視線を下に落とした。
「ふふ」
 玖美子が小さく笑った。
「矢島さん、今、何考えてたの?」
「いや、別に」
「当てて見ようか」
「何も考えてないさ」
 矢島の狼狽を玖美子は楽しんでいるようだった。矢島がもう一度玖美子に視線を戻した。玖美子の目はずっと矢島に向けられたままだった。今度はかなり長い時間視線が絡み合う。再び息苦しさが戻って来たが、今度は矢島も視線を外さなかった。
 戻り道で矢島は玖美子の手を取って急な坂を下った。何の抵抗もなく玖美子は矢島に手を預けた。勾配が緩やかになったところで矢島が手を離して先を歩き始めた。突然、玖美子が小さな悲鳴を上げ、いきなり背中にしがみついて来た。
「びっくりした。木の根っこがあったのね。転ぶかと思った」
 玖美子はそのまま矢島の背中にもたれている。
「ねえ、おんぶ」
「馬鹿言うな」
「だってえ、またつまづいたらやだもん」
「仕方無い」
 矢島は後ろに手を回して玖美子を背負った。背中に柔らかな膨らみを感じた。そう言えばここ暫く女には触れていない。肩口に掛かった玖美子の髪から甘い香りが漂って来る。
「さて、これからどうしようか?」
 車に戻った矢島がエンジンを掛け、エアコンの温度調節を一杯まで上げた。エンジンが暖まって来れば自動的に作動するはずである。
「この近所で泊まろうと思うけど、君はどうする?この時間じゃヒッチハイクはもう難しいな」
「私も一緒じゃ、だめ?」
「俺は構わないけど」
「じゃ、連れてって。宿代も浮くし」
「いいのか?こんなおじさんと一緒で」
「だって、矢島さん、悪い人には見えないもん」
「分からないぞ。俺だって男だからな」
「そう言う人に限って何もしないわ」
「やれやれ、女の子が安心するようになると男もお仕舞いだって誰かが言ってたっけ」
 湖畔に下りると街の灯りが見えて来た。最初に目に付いたホテルに車を着けた。
「何だか高そうなところね」
「大丈夫、部屋はシングルでいいな?」
「別々なの?二人で来たのにそれじゃ変よ」
「娘との旅行だと思えば不思議じゃないさ」
「やっぱり一緒の部屋がいい。ツインがなかったらダブルでもいいよ」
「馬鹿言うな。ま、いいか、ツインで聞いて見よう」
 日曜の晩だから空いていると思ったのだが結構混んでいるようだった。
「すみません、生憎ツインは全て満室です。シングルはございません。ダブルならご用意出来ます。あとはスイートになってしまいます」
 フロントの係りがすまなそうに言う。スイートは問題外である。
「パパ、ダブルでもいいじゃない」
 横から玖美子がもっともらしく口を挟んだ。
「よし、それでお願いするか」
 部屋に入ってみると案外狭い感じがした。料金から考えるともう少し広くてもよさそうである。玖美子はすぐに浴室に入ってお湯を出し始めた。
「お風呂、入るでしょ?」
「うん。風呂に入ったら食事に出ようか?」
「先に入って。すぐに溜まるから」
 ユニットバスなので脱衣所が無い。玖美子の見ている前で脱ぐのは抵抗を感じたが、仕方なく着ているものを順番に脱ぎ、下着一枚になってから浴室に入った。身体を洗い、軽くシャワーを浴びて湯を入れ替える。備え付けのガウンを着て浴室から出た。玖美子が茶碗を差し出した。
「お茶飲んで待ってて。すぐ上がるから」
 矢島が思わず目をそらした。目の前で玖美子が着ているものを脱ぎ始めたのである。目の端で玖美子の白い体が露わになって行く。玖美子は下着まで全て脱ぎ捨てて浴室に入って行った。矢島はその後ろ姿を眩しそうに見送った。
 ベッドサイドの案内書に目を通してこのホテルのレストランを調べた。フランス料理と中華だった。
「フランス料理と中華、どっちがいい?」
 矢島が声を掛けると浴室のドアが開いた。
「絶対フランス料理。ねえ、もしかしてフルコース?」
 矢島は目のやり場に困った。話し掛けているので目を逸らすのも不自然だが、玖美子は前を隠そうともせずに白い体を惜しげもなくさらしている。
「分かったから早くシャワーを使っちゃいなさい」
 矢島がまるで娘でも諭すようにそう言って横を向いた。
「はあい」
 今時の若い子はこんなものかと首をひねった。娘の久美子も他ではこんなに無防備なのだろうか。とっくに女になっているのは確かだと思うが、この屈託の無さ、無邪気さに矢島は不安を憶えた。
 シャワーから出て来た玖美子は入るときと同じように何もまとっていなかった。
「おい、ガウン着て来なさい」
 困ったように矢島が言った。
「でも、すぐに服着るんだし」
 そう言いながら荷物から下着を出す。脚を通すときに片足を振り上げたので矢島が目を背けた。
「困った子だ」
「矢島さん、お嬢さんがいるんじゃない?」
「ああ、娘が一人。ちょうど君と同じくらいの年だ」
「さっきフロントで名前書くとき、字、間違えたでしょう?もしかして、お嬢さんの名前、久美子さん?」
「そうだ」
「だと思った。書き慣れてるような感じだったもんね」
 玖美子がバッグから別の服を取り出して身に着けた。
「どう?これならレストランに行ってもおかしくないよね?」
「ああ、十分だ。ここはリゾートだからうるさくないし」
 矢島はポロシャツだけ新しいのに替えた。
「じゃ、行こうか。腹、減っただろう?  」
「ペコペコ。お腹と背中の皮がくっつきそう」
 料理の味はそこそこだった。二人でワインを一本空け、十時過ぎに部屋に戻った。
 矢島は服を脱いで下着一枚になり、そのままベッドに潜り込んだ。寝るときに何か身に着けるのは嫌いなのである。枕元のスタンドを点けて観光案内のパンフレットに目を通す。この近辺はよく知っているので目新しいものは何も無かった。
 十分程して玖美子がテレビのスイッチを切った。天井の灯りが消され、服を脱ぐ音が聞こえる。矢島の横に滑り込んで来た玖美子は何も身に着けていなかった。
「おいおい、裸で寝るのか?」
「うん、矢島さんだって裸じゃない」
「パンツは履いてるぞ」
「私、寝るときはいつもこの格好なの」
 矢島の脇に滑らかな肌が当たる。矢島はその感触に目眩を覚えた。
「そろそろ寝るか」
「まだ十時よ。いつもこんなに早く寝るの?」
「いや、いつもは一時過ぎまで起きてる」
「じゃ、何かお話しして」
 玖美子が体を寄せて来た。腕に胸の膨らみを感じた矢島が慌てて手を抜く。その隙間に玖美子が潜り込んで来た。期せずして肩を抱くような格好になる。玖美子の体が矢島に覆い被さるように密着した。
「思った通り」
「何が?」
「こうしてるとすごく落ち着くの」
「眠ってもいいよ」
「ううん、まだ眠らない」
 玖美子は自由な左手で矢島の胸を撫で始めた。
「男の人って、このまま眠れるの?」
「あと十歳若かったら無理だろうな」
 危ない雰囲気に矢島が慌てて話題を変える。
「短大を出てぶらぶらしてるって言ってたけど、親のところには帰らないの?」
 矢島は玖美子の手をそっと握った。その手を玖美子が強く握り返した。
「私、父親がいないの。父と母は今で言う不倫だったみたい。時代劇なんかに出て来るお妾さんみたいな感じ。その母もアメリカ人と結婚して向こうに行っちゃったし」
「兄弟は?」
「いないよ。お妾さんがそう何人も子供作れるわけ無いじゃん」
「それもそうだ。悪いこと聞いちゃったな」
「ううん、全然気にしてないから平気だよ」
「じゃ、今日は俺が父親代わりだ。思い切り甘えて眠ればいい」
「ううん」
 玖美子が絡めていた手を解いた。
「このまま眠るのは、いや」
 玖美子の指が矢島の裸の胸をなぞる。
「でなかったら、こうして一緒に泊まったりしないよ」
 それでも矢島は動かなかった。
「ねえ、私って、そんなに魅力無い?」
「とんでもない。正直言えば、こうして大人しくしていられるのが不思議なくらいさ」
「だったら、抱いて」
 突然、玖美子の体が矢島に覆い被さって来た。ぶつけるように唇が重ねられた。矢島がその体をしっかり抱きしめる。玖美子が舌を絡めて来た。
 暫くして玖美子が体を元に戻すと矢島が右手を胸に置いた。小振りだが形のいい胸である。ゆっくり手の平で全体を撫でながら小さな乳首を探し当てた。淡いピンクの乳首が少しづつ固くなって来た。
 矢島の手が胸を離れて下に向かうと玖美子が小さなため息をついた。矢島の手が脇から腰の線をなぞって行く。一旦尻から腿を伝って膝に下りた手が、今度は内側をゆっくり登り始めた。
「いいのか?」
 念を押すように矢島が玖美子の耳元で囁いた。玖美子が黙って頷いた。
 薄い茂みを分けた矢島の指が微かに触れた。指先に感じる襞は固く唇を閉じている。そっと押し広げると少し潤み始めていた。焦らず、ゆっくり襞の中で指先を前後に滑らせる。押し広げた唇は薄く、頼り無い。
「あっ」
 玖美子が小さな声を上げた。矢島の指先が入り口を探ったのである。それは殆ど分からないくらいの窪みで指一本でもきつかった。玖美子がまた小さく声を上げた。
 ほんの少し指先を埋めて引き抜くと玖美子がその度に声を上げた。矢島が唇で乳首を弄び、ゆっくり頭を下げて行った。
「あっ、何?」
 慌てたように玖美子が両脚を閉じた。口での愛撫は経験が無いようである。近頃の娘にしては珍しいと思った。無理に膝をこじ開けようとはせず、薄目のヘアーが生えたところに唇を這わせた。玖美子の膝が小刻みに震えていた。
 十分くらい経った頃、膝の力が抜け始めた。それでも矢島は無理に開こうとはしない。時折、玖美子の脚が力無く割れ、次の瞬間ハッとしたようにまた閉じられた。それが何回か繰り返され、とうとう半開きになった膝がそのままになった。
 玖美子にも矢島の意図は分かっているはずである。そこに唇を受け入れるかどうか、散々迷ったらしい。ようやく矢島の前に淡いピンク色の肌が姿を現した。
「恥ずかしい」
 玖美子がそう言って顔を両手で隠した。同時に膝が大きく割れた。パックリと口を開けた肌の初々しさに矢島が思わず唇を押し当てた。
「恥ずかしい」
 玖美子がもう一度言った。矢島がまるで壊れ物でも扱うように、静かに唇を動かした。口に含むだけで矢島は満足している。それでも労るような、傷口を癒すような動きを止めようとはしなかった。
「あっ、だめ」
 暫くして、玖美子の腹に力が入った。
「すごい、こんなの・・・・・・」
 玖美子の体全体が小刻みに震え始めた。
「何か変・・・・・・」
 玖美子が突然腰を後ろに退いた。その拍子に矢島の口が離れた。玖美子の横に並んだ矢島が肩を抱き、あやすように背中を二度軽く叩いた。玖美子の震えは暫く止まらなかった。
 ようやく玖美子が目を開けた。黙って見返すその目が潤んでいた。
「ちょっと休ませて・・・・・・」
 玖美子は大きく口を開け、肩で息を弾ませている。会ったときよりもずっと綺麗になったな、と矢島が思った。玖美子の息が収まって来たので矢島が指先を戻した。心なしか襞が厚ぼったくなっているように思えた。
「抱いて」
 玖美子が両手を上に上げる。
「このまま寝てもいいよ」
「ううん、そんなの、いや」
 玖美子の手が矢島の前に伸びた。矢島はまだパンツを履いたままだった。
「そんなの、いや」
 玖美子はもう一度そう言うと矢島の下着に手を掛けた。矢島が腰を浮かせた。下着が脱げ、玖美子の手が怖々矢島に触れた。
「抱いて」
 矢島が頷いて玖美子の上に被さって行った。玖美子がホッとしたように手を離す。自分から導くことはなかった。
 暫く入り口を彷徨った後、矢島がしっかりと自分自身を送り込んだ。先端が少し入ったところで押し戻されそうになる。その辺りに違った感触があった。
「まさか、初めてじゃないの?」
 玖美子が首を横に振った。それにしてもきついと思ったが、矢島は玖美子を信じて進めることにした。無理はせず、少し入れてはまた退く。ようやく先端がしっかりと入り込んだ。気になった矢島がそっと指で探ってみた。出血している様子は無かった。
(処女ではないにしても、殆ど経験無いに等しいな)
 矢島は無理に進めるのを止めた。玖美子の表情に歓喜の色は無い。歯を食いしばっているその表情は苦痛に堪えているとしか思えなかった。
 暫くすると奥の方が少し弛んで来た。少しだけ進むとまた強い抵抗がある。その繰り返しが続き、全てが収まるまでにかなりの時間が必要だった。
「分かる?」
 体が完全に密着したところで矢島が耳元で囁いた。玖美子がかすかに頷いた。
 そのままの姿勢で玖美子の体を強く抱きしめた。玖美子も負けじと矢島の背に回した手に力を込める。矢島の体が反応する度に玖美子が小さな声を上げた。
 矢島がゆっくりと身を退いたのはそれから三十分くらい経ってからだった。
「あっ・・・・・・」
 少しずつ引き抜く度に玖美子が声を上げる。最後に矢島が勢いよく押し出された。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「本当に初めてじゃなかったの?」
「本当。嘘じゃない」
「何度目?」
 玖美子が黙って指を二本立てた。
「やっぱり。それじゃ初めてと変わらないよ。痛かったんじゃない?」
「ちょっとだけ。でも、最初の時は我慢できない位痛かった」
「今は違った?」
「うん、苦しかったけど、嬉しかった」
 玖美子が矢島の目を真っ直ぐ見詰めた。
「矢島さん、まだでしょう?」
「うん」
「少し休んでから、もう一度してもいいよ」
「いや、今日はもう無理しない方がいい」
「でも、それじゃ可愛そう。男の人って、最後まで行かないと辛いんでしょう?」
「若い頃と違って、このままでも眠れるさ」
 玖美子が少し考えてから言った。
「どうすればいいか教えてくれたら、その通りにする」
「大丈夫だから」
「そんなの、いや」
「じゃ、触ってくれる?」
 玖美子が頷いて上半身を起こした。毛布をはがすと矢島の体が露わになる。若い子相手だといつもより大きいな。矢島が苦笑した。
「きれい」
 玖美子が手を伸ばして恐る恐る矢島を握りしめた。
「きれいじゃないさ。男なんて」
 矢島が照れたように言った。
「ううん、きれい。男の人のって、光ってるのね」
 矢島が玖美子の手を上から握り、ゆっくりと上下に動かし始めた。
「こうすればいいの?」
 玖美子が自分で手を動かし始めた。
「うん、もう少し強く握って。もうちょっと強く」
「痛くない?」
「うん。もっと強く」
 矢島が手を離して全てを玖美子に委ねた。ぎこちない動きだが指先の柔らかさが心地よい。暫く遠ざかっていたこともあり、矢島の体がすぐに反応し始めた。ベッドを汚すのは気分が悪いので枕カバーのタオルを取って玖美子に渡そうとした。
「出そうなの?」
「うん、そろそろ」
「タオルなんか無くても平気」
 玖美子が矢島の方に体を倒した。抵抗があるだろうと言い出さなかったのだが、玖美子はためらいもなく矢島を口に含んだ。突然のことに矢島は身を退く余裕が無かった。
「だめだ・・・・・・」
 次の瞬間、矢島が弾けた。玖美子が全てを口で受け止めた。
 タオルを渡そうとしたが玖美子は僅かに口の端を拭っただけで矢島に重なって来た。
「間に合わないんで飲んじゃった」
「ごめん」
「ううん」
 玖美子が矢島の喉元に何度も唇を擦り付けた。





[後編]
 翌日、昼過ぎに二人がチェックアウトした。車は山中湖、河口湖を過ぎ、本栖湖に近付いている。このまま走れば富士山をほぼ一回りすることになる。
「どうする?東名に戻ってヒッチハイク続けるか?」
 矢島がぽつりと聞いた。名残惜しい気はするが、このまま一緒に過ごしていいものか、矢島には決心が付かなかった。
「そうして欲しいの?仕方無い、また別の男の人に拾って貰うか」
 玖美子が悪戯っぽい声で答えた。矢島が露骨に嫌な顔をした。
「やな言い方だなあ」
「だって、意地悪なこと聞くんだもん」
 玖美子が矢島の腿を思い切りつねった。
「じゃ、このまま一緒に来る?」
「勿論」
「俺も一緒の方が楽しい」
「そうでしょう。だったら、何で正直にそう言わないの?」
「俺みたいなオジサンが玖美子みたいな若い子を引き回していいもんか、自信が無いんだよ」
「歳の差なんて関係無いよ」
「そう言ってくれると嬉しい、と言うか、気持ちが軽くなる」
「ところで矢島さん、奥さんいるの?」
「三年前に別れて、今は独りだ」
「なら、何もやましいこと無いじゃない。私だって二十歳過ぎた立派な成人よ。他人にとやかく言われる筋合いなんか無いわ」
「ま、理屈はそうだが」
「でも勘違いしないで。私、責任取ってなんて言わないから」
「多少、いや、大いに責任感じてるさ」
「責任なんて取らなくていいの。私の方から押し掛けたんだから」
 それでも玖美子は少し間をおいてから付け加えた。
「でも、責任取って貰うのも悪くないかな?」
「玖美子は久美子と、ああ、ややこしい。君は俺の娘と同い年なんだよ」
「それがどうしたの。世の中にはもっと年の離れたカップルだって大勢いるのよ」
 女は変わるものだ。矢島はしみじみそう思った。だからと言って勿論悪い気はしない。しかし、娘と同い年の若い子と付き合ってると知ったら周りが何て言うか。いや、それよりも娘がどう思うだろうか。このまま付き合い続けるとしたら再婚するしか無いだろう。結婚式場で父親と間違われている自分を想像して矢島が苦笑した。
「どこか、温泉でも探してみるか」
 当てもなく車を走らせながら矢島が言った。車はちょうど本栖湖の信号に差し掛かっている。
「うん。露天風呂があるとこがいいな」
「よし、探してみよう」
 信号を右折して本栖湖畔を走り、やがて葛籠折れの急坂を下る。下りたところは下部温泉だが温度が低く、どちらかと言うと療養向きと聞いていたので素通りした。もう少し富士川に沿って下ると温泉の看板が目に入った。
「ここにしようか?」
「山奥の温泉みたいね。行ってみよう。露天風呂があるといいな」
 思ったよりも大きな宿だった。通された部屋から渓流が見下ろせる。泊まり客らしい浴衣姿の男が二、三人、目の前の川で釣り糸を垂れていた。川べりに大浴場があり、驚いたことに窓から浴室が丸見えだった。
「やだ、あれ、女湯よね」
 窓から身を乗り出した玖美子が驚きの声を上げた。矢島も顔を出した。
「本当だ。結構若い子も入ってる。これもサービスかな」
「だったら男湯も覗けないと不公平じゃない」
「宿のオヤジの趣味だよ、きっと」
 沢の向こうにも別棟の浴室があるようだった。二人は浴衣に着替えてから吊り橋を渡った。
「混浴じゃないのね。残念」
 玖美子が男湯と女湯の看板を見て口を尖らせた。
「先に上がったら部屋に戻ってなさい」
「多分、私の方がゆっくりだと思うよ」
 男湯と女湯に分かれた別棟の岩風呂は思ったより小さなものだった。湯は壁の岩から流れ落ちているのだが、どう見てもその姿は女のあの部分の形をしている。それも自然ではなく彫り込まれたものである。多分、女湯の方には男のシンボルがあるのだろう。
 玖美子が言ったとおり矢島の方が大分早く湯から上がった。三十分位してようやく玖美子が戻って来た。
「ねえ、お湯、何から出てると思う?」
「男のシンボルだろう」
「そうなの。大きいのが真ん中に立ってて、その先からお湯が吹き上げてるの」
「やっぱりな。男湯の方は女だ。でも、お湯が吹き上げてる姿って、ちょっと嫌らしいんじゃないか?」
「そう。まるで、あれそっくり」
「色は」
「色は白いの」
「なら、まだいいか。でも透明な湯でよかったな。白骨だったらそのものズバリになる」
「白骨って、お湯が白いの?」
「うん。薄く濁ってるから、そっくりだと思うよ」
「あーあ、一緒に入りたかったなあ」
「明日、穂高の方にでも行ってみよう。あっちには確か露天風呂もあるから」
「約束よ」
 夕食のメインは猪料理だった。
「猪は精がつきますから」
 女中が意味ありげにそう言って皿を並べる。
「山芋、これ自然薯です。これも効きますわ」
 女中が下がると矢島が不機嫌な顔で言った。
「まったく近頃の奴は、客に向かって何て口の聞き方するんだ」
「きっと不倫だと思ったのよ。そう言うカップル、最近多いんじゃない?」
「だろうな」
 猪鍋はやたら味付けが甘かった。多分、この地方の味なのだろう。折角の肉が台無しだと矢島が愚痴をこぼす。食事を終えてもう一度風呂に入り、その間に用意されていた布団に玖美子が潜り込んだ。今日も玖美子は生まれたままの姿だった。
「ねえ、そろそろ寝ない?」
「そうだな」
 時計を見るとまだ八時前だった。旅館の食事はやたら早いので夜が長い。矢島も浴衣を脱いで布団に入った。
「ねえ」
 矢島の胸に顔を埋めながら、玖美子が鼻に掛かった甘え声で話し掛けた。
「何」
「私とこうなって、後悔してる?」
「それを聞くのは俺の方だよ」
「ううん。私は全然後悔なんかしてないよ」
「若い子とこうなって後悔する男なんか、一人もいないさ」
「私さあ・・・・・・」
「ん?」
「最初から誰かにナンパされる積もりだったんだ」
「だと思った」
「私の話、聞いてくれる?」
「うん」
「実は私、高校一年の時に姦られちゃったんだ」
「やられたって?」
「犯されたってこと」
「誰に?」
「体育の教師。部活で体育館に残ってたら、いきなり地下の用具室に連れ込まれちゃって。夕方で誰もいなかったし、叫んでも助けに来てくれる人、一人もいなかった」
「とんでもない奴だ。で、ちゃんと訴えたのか?」
「勿論。でも最初はまともに取り合って貰えなかった。私、親がいないじゃない。ああ言う時って、親がいてくれたらって、つくづく思ったよ」
「警察に行ったのか?」
 矢島は腹立たしい思いにかられた。生徒同士なら矢島にも覚えが無い訳ではない。もっとも、嫌がる相手を無理矢理押し倒したことは一度も無かった。いずれにせよ相手が教師となると話は別である。
「ううん、まず校長に直談判したの」
「あっ、そりゃあ駄目だ。表沙汰になって自分の経歴に傷が付くのを怖がるだけだから」
「本当、その通りだった。何とか私を言いくるめようとしたの。あの手この手で私をなだめるのに必死こいてた。最後に私が警察行くって言ったら途端に掌返したように態度変えやがってさ」
「最初から警察は行きにくいんだろうな」
「そりゃあ行きにくいよ。ちゃんと話聞いてくれるか信用できないし。警官って男ばっかだと思ってたし。でも、警察に行くって脅しが利いて、結局その教師は即転勤。内々で示談ってことになったの」
「で、幾ら貰った?」
「三百万」
「そりゃあ安すぎる」
「後になってそう思ったよ。でも当時の私には三百万って大金だった。これでバイトしないで高校出られるって喜んじゃった」
 表沙汰にしないで済んだならその倍でも安いものだろう。
「男の人とセックスしたの、後にも先にもそれ一度だけ。痛かったし、鳥肌が立つくらい嫌だった」
「で、昨日が二度目だった訳か」
「ううん、昨日が初めて。そう思ってる。前のは事故に遭って怪我しただけ」
 矢島が思わず玖美子の体を思い切り抱きしめた。
「それから玖美子、男の人が嫌いになったの」
「無理ないさ。そんなことがあったんじゃ」
「男ってさ、みんな、やりたい、やりたいって顔で近付いて来るんだもん。あいつと同じ。中には優しい奴もいたけど、いざってなると思い出しちゃうのよね、あん時のこと。ホテルまで行ったことも何回かあったけど、最後に拒むとみんな乱暴になっちゃうの。必死で逃げて、そんなことが続くと男の顔見るのも嫌になっちゃった」
「それが又どうして俺なんかに?」
「成人式過ぎて、短大も卒業して、このままじゃ一生駄目かなって思ったの。どこかで踏ん切り付けないとって。頭では分かってたの。いずれきちんと受け入れようって。だって、みんな誰でもしてることじゃない?」
「強いな、玖美子は」
「矢島さん、私が車に乗った時に言ったでしょ、下心があるから乗せるんだって」
「おいおい。最初は無かったぞ。いや、ちょっぴり位はあったかな」
「分かってる。最初からこの人は違うなって感じたの。乗ってみたら思った通りの人だった。だから矢島さんにって思ったの。私、最初から誰かにナンパされる積もりだったけど、変な人じゃ嫌だった」
 矢島が何も言わず玖美子の髪を撫でた。
「ねえ」
 玖美子の手が矢島の頬に触れた。
「何?」
「私にちゃんと教えて」
「教えてって?」
「女になりたい」
 返事の代わりに矢島が玖美子の体を引き寄せた。
 矢島は昨日よりも更に時間を掛けた。矢島の唇に、舌に玖美子がしっかり反応し始める。昨日よりも緊張が解れているようだった。玖美子の潤いを確かめた矢島が優しく沈めて行った。
「痛くない?」
「大丈夫。昨日とは全然違う」
 矢島はゆっくりと腰の回転を始めた。更に潤いを増した玖美子の体が小刻みに震えてまとわり付く。
「好きかも」
 玖美子がポツンと言った。
「俺のこと?」
 矢島が動きを止めた。
「やめないで。あなたのことはとっくに好き」
 玖美子が腰を動かし始めた。
 翌日は約束通り露天風呂のある宿を探し、そこに二泊した。その後、日本海に出て黒部の宇奈月温泉に一泊し、糸魚川から小谷を通ってアルプスの見えるホテルで最後の晩を過ごした。
 その晩、矢島の腕の中で玖美子が眉を寄せて苦しそうな表情を見せた。
「どうした、苦しいか?」
 慌てて動きを止めた矢島に玖美子が強くしがみつき、首を横に振った。
「やめないで」
 途切れ途切れに玖美子が喘ぎながら呟く。矢島が少し強く腰を動かすと食いしばった歯の間から長く尾を引くような呻きが漏れた。
「離れたくない」
 我に返った玖美子が矢島の目を真っ直ぐに見ながらハッキリとした口調で言った。矢島も目を逸らさずに頷いた。
「離れたくない」
 もう一度、玖美子が繰り返した。

「パパ、最近留守が多いね」
 久しぶりに娘の久美子が電話して来た。
「ああ、いろいろ忙しくてな」
「明日帰る」
「春休み、終わったばかりじゃないか」
「ううん、中学のクラス会があるんで明日の土曜日に帰って、日曜がクラス会で、月曜の晩に京都に戻るの」
「そうか。東京駅まで迎えに行くか?」
「そのために電話してるんじゃない。八時半、夜のよ。八時半に着くから迎えに来て」
「分かった。どこで?」
「いつもの駐車場。入り口のところで待ってて」
「分かった。飯でも食うか?」
「その積もり。ところで、パパ、最近、いい人できたんじゃない?」
「何だ、いきなり」
「だって、夜電話してもいつも留守なんだもん。前はそんなこと無かったよ」
「ま、当たらずといえども遠からず、かな」
「やっぱり。明日帰ったら会わせてね」
「どうするかなあ」
「だめよ、会わせなきゃ。どんな人か私が見て上げる」
「分かった、分かった。とにかく八時半だな」
「駐車場に着くのは四十五分位になると思うよ。じゃあね」
 電話を切った矢島がため息をついた。いずれとは思っていたのだが、予防注射の順番と同じでなるべく後に回りたいとついつい逃げ腰になってしまう。自分と同い年だと知ったら娘が何と言うか。正面切って反対するとは思えないが、その分、余計に傷付き兼ねない。
 旅行から戻っても矢島と玖美子は毎日のように会っていた。ホテルで過ごすのは週に一、二回だが、殆ど毎晩のように夕食を共にしていた。それでもお互いの家で会うことは無かった。なし崩しの関係になってしまうのを矢島が恐れたのである。
 玖美子は最初不満そうな顔をしたが、きちんとけじめを付けてからと言う矢島の気持ちに玖美子も納得したようだった。そうなると最早決心を固めるしかない。そのための最初で最大の関門が娘の久美子である。その怖い関門が明日帰って来る。
「ただいま、パパ」
 いつも待ち合わせに使っている駐車場の入り口で矢島が娘の久美子を出迎えた。
「お帰り。新幹線、遅れたのか?」
「少しだけ。大して待たなかったでしょ。おなかペコペコ。早く食べに行こう」
「分かった、分かった」
 矢島が駐車場から車を出した。
「パパ、この車、女臭いわよ」
 久美子が横から顔を覗き込む。一瞬ドキッとした矢島だが、さりげなく受け流した。
「そうかな。俺には分からんけど」
「嘘よ、カマ掛けただけ。もっと狼狽えると思ったのになあ」
 今更隠しても仕方が無い。
「玖美子は何度もこの車に乗ってるから、少しは匂いがしても不思議は無いよ」
「えっ、私、ここ暫く乗ってないよ、この車」
 久美子は矢島の顔をしげしげと覗き込んだ。
「ねえ、パパ」
「ん?」
「もしかして、パパの新しい彼女、私と同じ名前?」
「うん。字は違うけど」
「どう言う字書くの?」
「久美子のは久しいだろう。彼女は王偏に久しいって書くのさ」
「珍しい字ね」
「うん」
「全然隠さないとこ見ると、かなりの線まで行ってるね。ママもとっくに再婚してるんだから、パパもそろそろ身を固めてもいいんじゃない?」
「まあな。俺よりも相手の方が煮詰まってるから、今更隠し立てする訳にも行かないのさ」
「おやおや。で、いつ会わせてくれるの?明日はクラス会で出掛けるから、あんまり時間無いよ」
「うん」
「今晩か、明後日のお昼ね」
 矢島はホテルの駐車場に車を乗り入れた。
「実は、今晩一緒に食事しようって待たせてるんだ」
「あら、今回はパパに似合わずやけに手回しいいね」
「うん。それでなんだけどさあ・・・・・・」
 矢島は車を停めても降りようとしない。
「何口ごもってるのよ。パパらしくない」
「会えば分かることだから、言っておこうと思うんだけど」
「じれったいわねえ。早く言っちゃいなさいよ。彼女、玖美子さん、待ってるんでしょう?」
「ああ、実はな、彼女、かなり若いんだ」
「やったね、パパ。若い子に鼻の下長くしてるんだ」
「長くなんかしてない。兎に角、かなり若いんだ」
「そこまで言うとこ見ると、二十代だな。でも、まさか、私より若いなんてこと無いよね」
「久美子は五月生まれだったよな」
「えっ、何、もしかして同い年?」
「うん。彼女は早生まれだから、学年は一つ上だ」
「パパぁ」
 久美子は矢島の顔をまじまじと見詰めた。
「参ったなあ。そんなに若いんだ」
「そう言うだろうと思ったよ」
「当たり前よ。私はパパの娘よ。新しい母親が私と何ヶ月も違わないなんて、そんなこと、考えても見なかった」
「会ってくれるか?」
「そりゃあ会うわよ。会わない訳に行かないじゃない」
 久美子は腕を組んで正面を向いたまま暫く黙り込んだ。
「よし、覚悟決めた。行こう、パパ」
「ありがとう」
「何よ、改まって。でも、彼女もきっと緊張して待ってるんだろうなあ」
「昨日、この話したら泣きそうな顔してた」
「だろうね。分かった。目を吊り上げないようにしなくっちゃ」
 矢島は個室を用意してそこに玖美子を待たせていた。二人がドアを開くと弾かれたように玖美子が椅子から立ち上がった。
「こんばんわ」
 先に声を掛けたのは娘の方だった。
「こんばんわ、初めまして」
「こちらこそ。玖美子さんですね。私も久美子。父がお世話になってます」
「とんでもない、お世話になってるのは私の方です。どうぞよろしく」
 二人の堅苦しい挨拶を聞きながら矢島は強張った顔で立ちつくしている。
「ま、堅苦しい挨拶はこれ位にして、座りましょう」
 娘がそう言ってさっさとテーブルに付いた。つられて矢島も腰を下ろした。玖美子がやや遅れて座った。
「ねえパパ、こんな可愛い人、どこで引っ掛けたの?」
「おいおい、引っ掛けたなんて人聞きの悪いこと言うな」
 玖美子が口を挟んだ。
「引っ掛けたのは私の方。ヒッチハイクで拾って貰って、それが切っ掛けだったから」
「へえ、ヒッチハイク。ああ、この間パパが一人で旅行した時ね。箱根とか、そう言えば日本海にも」
「そう。日本海のお魚も美味しかったし、北アルプスだっけ、お山もきれいだった」
「じゃ、旅行の間中ずっと一緒だったんだ」
「うん」
 玖美子が少し顔を赤らめた。
「婚前旅行って訳か」
 娘の言葉に矢島が思わず玖美子を見た。耳たぶまで真っ赤にして玖美子が頷いた。
「おめでとう、パパ。そして玖美子さんも」
「ありがとう。よかった、そう言って貰って」
「他に言いよう無いわよ。だってあなた達、もう決めてるんでしょ?」
「私の気持ちは決まってます」
 玖美子が顔を上げてきっぱりと言い切った。

「久しぶりの我が家だわ」
 家に戻った久美子が家の中を見回しながら言った。二人で玖美子を送り届けたのである。
「ここに住むの?」
「どうしようか迷ってる。でも、ここには昔の匂いが色々残ってるからなあ」
「分かるわ」
 久美子は暫く考えてから矢島の方を向いた。
「ねえ、この家、私にちょうだい。卒業して戻って来たら私が一人でここに住むから」
「そうだな、それが一番いいかも知れない」
「パパたちは新しいところで始めるべきよ。玖美子さんのためにも」
「うん。取りあえずマンションでも借りようと思ってる」
 風呂に入って自分の部屋に戻った矢島はベッドに潜り込むと暫く天井を見上げていた。少なくとも初めてのご対面はうまく行ったようでホッとしていた。
 そろそろ寝ようと思っているとドアが軽くノックされた。
「何だ?」
 パジャマ姿の久美子が顔を出した。
「ねえ、パパ。今晩一緒に寝てもいい?」
「いいけど、珍しいな。久美子と一緒に寝るの、小学生の頃以来だ」
「うん。何だか今晩は一人で寝るの、嫌なんだ」
 久美子が矢島の横に体を入れた。玖美子との初めての晩のように娘がぴったり体を寄せて来た。
「何だか、パパを取られちゃった気分」
「ごめん」
「ううん、文句言ってるんじゃないの。玖美子さん、可愛い人ね」
 玖美子と同じぬくもりが娘の体から伝わって来る。突然、久美子が矢島の胸に顔を埋めた。暫くすると肩が小刻みに震え始めた。矢島の胸に熱いものが流れた。
「ごめんなさい」
 ようやく上げた久美子の顔が涙で濡れていた。
「謝るのは俺の方だ。ごめんよ」
「ううん、ちょっとショックだっただけ。突然だったから」
 久美子が悪戯っぽく笑った。
「白状しちゃおうか」
「何を?」
「今日さあ、玖美子さん見てて、私とパパが他人だったらよかったのになあ、って思っちゃった」
「もし他人だったとしても、こんなオジサンでいいのか?」
「同じこと、玖美子さんにも言ったんでしょ」
「まあな」
「パパの胸って、凄く暖かいんだ。こうして抱いて貰ってると安心するの」
「玖美子もそう言ってた」
「だと思った」
 久美子が矢島のほっぺたに軽くキスした。
「私もヒッチハイクしてみようかな」
「やめとけ。変なオヤジに引っ掛かるだけだ」
「それって、パパのこと?」
「うん」
 久美子が吹き出した。波打つ腹の動きが矢島にも伝わって来る。抱き付かれているので挟まったものが揺すられて僅かに頭を持ち上げた。
「やだ、パパったら」
 久美子がもう一度笑った。
「ごめん。少し離れろ」
「ううん。いいの」
 久美子が腰を押し付けて挟まったものを確認した。
「ねえ、玖美子さんとの最初もこんな感じだったの?」
「そうだな。玖美子の方から抱いてって迫られたよ。初めてみたいなものだった」
「初めてみたいって?」
「玖美子は高校の時に教師にレイプされたんだ。それ以来、男には近付かなかったらしい」
「じゃ、パパが二人目だったんだ」
「いや、本人はパパが初めてだと思いたいって言ってた。犯されたのは怪我しただけだって」
「ふうん。玖美子さんって強いんだね」
「ああ。いずれは通らなければいけないことだからって覚悟決めてパパに抱かれたんだって」
「それで、良かったんだ?」
「みたいだな」
「あーあ、パパがパパじゃなかったらいいのに」
「さあ、むさ苦しいオヤジだぞ」
「でも、玖美子さんはパパを選んだんでしょ?」
「うん」
「マジで私もヒッチハイクしてみようかな」
「何で?」
「だって、これまで付き合った彼氏って、いざ抱かれてみると、みんな自分勝手で下手糞なんだもん。エッチってそんなもんかなって思ってたけど、玖美子さん見てると羨ましい」
 そう言いながら久美子が腰をグリグリ押し付けた。
「おい、よせ」
 矢島の前が固さを増した。
「冗談よ。まさかパパとって訳にも行かないでしょ」
「当たり前だ」
「パパは幸せよね。本当に娘みたいな、それも凄く可愛いお嫁さん貰えるんだから」
「まあね」
「大事にしないとバチが当たるわよ」
「うん」
 薄い布きれを隔てただけの二人。それが矢島と娘の置かれた状況そのものに思えた。固さを増した矢島を久美子が腰を押し付けて確かめる。どちらかが手を伸ばせば呆気なく崩れてしまいそうな危うい二人である。
「今度帰って来たら、また一緒に寝てね」
 久美子が唇を重ねた。それが親子の口付けではなくなっても矢島はジッと堪え続けた。

---END---
スポンサー広告